38人が本棚に入れています
本棚に追加
― 一五話 ―
「お父様からの呼び出し…ねえ?」
「きっと先ほどの事で、色々と聞きたいことでもできたのでしょう」
シャドウがとてものんびりとした口調でいうので、私も自然とのんびりとした気持ちになってきた。
私はゆっくりと深呼吸をすると、対貴族用の戦闘用の顔、『ふんわりおっとりとした姫君の微笑』を装備した。
そして、ゆっくりと扉が開くのを待ち、軽やかに足を踏み出した。
私が廊下を歩いていくと、使用人たちが道をあけてくれて、頭を下げる。
その時に、見慣れない新顔の使用人がいることに気が付いた。
「あら、あなた、初めて見る顔ね。
名前は何というのかしら?」
「は、はい!私は、レーニャ…レーナと申します」
「ふふ…。これから宜しくね、レーナ。あなたが出世して、私の側仕えになってくれると嬉しいわ。これはお世辞じゃなくて本心よ。
……待ってるからね」
「…っつ!!はい、必ず!!」
私はそのまま歩いていく。
シャドウとライトは私の考えが完全に分かっているようで、渋い顔をしたままだ。それははた目には、使用人に構い過ぎる、世間知らずのお嬢様なのだという顔にしか見えないが、実際は違う。
私の対使用人の必殺奥義『新しい子とお局様にはいい顔を使用』である。
これは前世でも非常に役にたったらしい。しっかりと記憶に残っている。
私は謁見の間の扉の前へとたどり着き、扉を守っている騎士に声をかける。
「お仕事お疲れ様、リック、ユーリ。
お父様はもうお着きなのかしら?」
「はい!姫様!」
「陛下はお着きです!」
私は「そう…」と言い、少し憂いのある顔をする。
すると二人は顔を見合わせ、励まそうとしてくれる。
「大丈夫ですよ、姫様!きっと悪いことなんてありませんって!」
「そうっすよ!このユーリが言うんですから、間違いないっす!姫様!!」
私はゆっくりと目を開け、花が咲くように笑って見せる。
そして柔らかく、可憐な声をしっかりと作り言った。
「ありがとう、リック、ユーリ。おかげで元気が出ましたわ。
お仕事、これからもがんばってね!」
二人はすっかりとろけてような顔になって「はい!」という。
ライトなぞ、可愛そうなものを見る目で見ている。
これは対男性騎士専用『好意は最高調』という技だ。
私はそのまま謁見の間へと入っていくのだった…。
最初のコメントを投稿しよう!