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― 第三話 ―
――その夜、私は久々に痛みのない夜を過ごした。が、今まで痛いことが当たり前だったため、何とも言えない、不思議な感じがして寝付きにくかった。
やっと何とかうとうととしてきたころには、すでに真夜中。
そのままゆっくりと眠りのふちに吸い込まれた私は、なぜか草原のようなにおいがしてきたことに気づき、目を開けてみて驚いた。
辺りは見渡す限り、青々とした草に覆われた大草原だった――
「どうしてこんなところに?
私は神殿の孤児院の埃くさい布団に寝ていたと思うのだけど…?」
『それはそうでしょう』
いきなり私の後ろから、うっとりするほどの美しいテノールの響きが聞こえた。
慌てて振り返ると、そこには、神殿のステンドグラスに描かれた主神と同じような服装をしている、夜空を思わせる紺色の美しい髪、月のように輝く目の青年が立っていた。
「あの…、どちら様ですか?」
『これは失礼。
私は知識の神、フェルミストースと申します。
以後お見知りおきを、ルチア・ガーネット・ジュエル』
――まさかの神様。まあ、主神と同じような服装をしておられたから、まさかとは思ってたけど。
「知識の神であらせられましたか。それでは私の名をご存じだということにも納得できます。
しかし、たかだか神殿の孤児の私などの元に、知識の神ともあろうお方がなぜいらしたのですか?」
『あなたが私に願ったではないですか。
やっかみの対象にしかならないということを神々に教えてほしいと。
ですから私はあなたのためにあなたの夢に現れてまで神託を下そうとしているのですが?』
別に知識の神に願ったわけではないのだけれど。
でも、新しい知識を提供したということならば、納得がいく…かな?
「それは大変失礼いたしました。
わざわざご足労頂きましたこと、誠に嬉しく、ありがたく思っております。
ところで、それほどまでにしていただいたその本題の神託とはなんですか?」
『後五年我慢してください。
そうすれば、私の妻であるフロッティーナの加護を受けたあなたは、正しい家族のもとで、よき生涯を送るための分岐点にたどりつくことが出来るでしょう。
もちろん、神殿でのいじめにも負けず、正しい行いを続けていけば、自然とその分岐点に行くことが出来るでしょう。
知識の神として言えることは以上です』
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