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ドアの前には目をまん丸く開けた木野さんが立っていた。 「川瀬は完全に営業向きだ。でもって事務仕事には不向きだ。一方お前はどうだ? 総務の中でも仕事が正確だったって聞いたぞ。営業だって現状人並みには熟せそうじゃないか。お前はお前でちゃんと評価されるべきところがある。要は目立つか目立たないかだ」 「えっ? あの」 一体何の話だ。 訳が分からないでいると木野さんが恐る恐る口を開いた。 「…私なんかに川瀬先輩よりも優れているところがあるんですか?」 「あるだろう。少なくとも、さっきこいつに指摘したことは確実に木野の方がしっかり出来ているはずだ」 「…今までそんなこと誰にも言われたことないです」 「お前が聞かなかっただけじゃないのか。以前は知らんが、今となっては木野は社内の女子じゃ評価されているほうだよ」 「でも――」 「憧れるのもいいけどな、自分を見失うな。人にはそれぞれ向き不向きがある。お前はコイツに固執し過ぎだ」 憧れる? 固執? コイツって――私? ってことは…? 「…由香里は俺でも榊課長でもなくて陸の事ばっかり考えていたのか?」 いつの間にか体勢を立て直した良也が目を丸くして課長と木野さんを交互に見ている。 途端、課長が再び向き直って私を見やる。 その表情は悪戯に口角を上げていた。 「モテモテだな川瀬。4角関係の矢印は全員お前向きだったみたいだぞ」 「はっ? えっ? ええっ!?」 私は事の衝撃に無駄に大きく声を上げて体を反らし、ソファの端から転がり落ちそうになった。
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