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特に良也を庇う必要性はないのだけれども、仕事を辞めさせることになると責任を感じざるを得なくなる。
なので、必死に課長に変わって制裁を誓うと、課長は良也を跳ね飛ばしてできたソファーの空きスペースにどっしりと座り込み、腕と長い足を組んだ。
そして、こちらにくるりと顔を向け不満そうに言い放つ。
「男にいいようにされやがって馬鹿かお前は」
「ばっ馬鹿って。 私はちゃんと抵抗しましたよ! って私達がここにいるってわかっていたんですか?」
「抵抗したところで回避できてねーじゃねぇか。そもそも自分に気のある男とこんなところで2人きりになるな。鍵を持って行った奴が施錠もせずに部屋に居ないならその奥にいると思うのが当然だろうが。…まさかこんな状況だとは思いもしなかったが」
「私はただ話をしていただけですっ」
「ただ話をしていた結果が今の状態なら一生俺以外の男と話なんてするな」
「はぁ!? 何急に無茶苦茶言ってるんですか!」
オフモードの口調で話しかけられたので思わず釣られて考えなしに反論する。
相手の方も止まらない。
「下心バリバリの男伴って油断するなんて子供か。そういえばお前この前提出した書類ガキみたいな誤字あったよな」
「そ、それは今関係ないじゃないですか」
「それにたまに何だか知らないけどひらがなを書き間違えるよな。あれこそ本当にガキだよな。馬鹿丸出し」
「なっ」
「未だに計算ミスは多いし、事務作業が雑。会社に提出する書類にまるで気が配られてない」
「だから、なんで今私のダメ出しをするんですか!」
堪らず叫ぶと、急に目の前の顔が綻んだ。
「お前とのこういう気軽なやり取り本当に久しぶりだな」
「へっ?」
穏やかに目を細める課長の表情に気を取られているうちに、その顔は半回転してドアを見やる。
その目はもう切り替わっていて、今度はいつもの上司の顔。
「わかったか。こいつはお前が思ってるような完璧人間なんかじゃ全然ない。張り合う必要なんて全くない」
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