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話を聞いてみると、なんとも嬉しいようなこそばゆいような事実が浮上してきた。 有難いことと言って良いのかどうかはこの際置いておいて、木野さんは私なんかに憧れてこの会社への入社を決めた女の子だったのだ。 確かに一昨年、人事の依頼で入社1年目の社員代表として内定式に赴いてひとつ下の後輩の前でスピーチをしたことを覚えている。 初年度から一課に配属され辞めることなく働き、短い期間でそれなりの業績の残していた私が当時の新入社員代表に選ばれたのだ。 でもって、木野さんはそんな私の話を聞いて憧れ、故に他社と迷っていた入社をうちの会社に決め、心情そのままに入社式を迎えたのだった。 研修期間を終えてその後、夢のOL生活にいざ羽ばたかんとしたときに、木野さんにとって衝撃的な出来事が起こる。 配属先が営業ではなく総務だったのだ。 研修中に細やかな気遣いと事務処理能力が高いことを認められ、営業に必要な精神的な持久力の少なさから適材適所という会社の方針の下に出された人事だった。しかも、内定式で私の話を聞くまで事務希望だった事も悪い方向に作用した。 その人事は入社する前から営業部で頑張ろうと思っていた木野さんにはあまりに大きなショックを与えてしまった。 ショックに打ちひしがれながらも、勤務してからの配置転換もあると知った木野さんははじめの内は精力的に働くのだけれど、私は2年目も調子が良くて結構成績も伸びていたので、自分との差を感じて焦りが募る一方だったという。 そして、いつの間にやら自分には追いつけない、同じようには仕事が出来ないと気持ちが下向きになり、コンプレックスを作るだけ作って、仕事に対して消極的になっていった。 そんな日々を送っていたときに偶々飲みの席で良也と出会ったというのだ。 当時私と付き合っていた良也が私の愚痴を吐き出し、自分のすることに対して喜んでくれるのに何とも言えない優越感を抱いた。 心地よい感覚に惹かれていく内に良也に恋をして付き合いたいと思うようになったとか。 結果として私と良也が正式に別れて良也が完全に自分のモノになったとき、はじめて川瀬陸に勝った、自分にも私より優れた部分があるのだと実感が湧き今まで仕事で感じた事のない達成感を味わった。
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