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けれども付き合っている内にその感覚は薄れていき、次第に良也が自分と私を比較してるんじゃないかという強迫観念に囚われて疑心暗鬼になっていく。 そして実際良也は私と木野さんを比べており、それが木野さんに伝わらないわけもなくそれから先は負の連鎖。 極め付けが社員旅行。 「私、遠くから川瀬先輩がビーチバレーしてるいのを見てたんです。運動神経まで良いって知ってなんだか無性に張り合いたくなってしまって…。けど見せつけるつもりで良也を連れていったら、もう良也のことなんか全然気にしてなくて、代わりに榊課長とすごく親しげで、挙句の果てに――」 “正反対”。 私と二人でした会話のこの言葉が一番問題だったらしい。 拗らせて憧れている張本人から自分とアンタは全く別なのだと言われたのだ。 自分と違って女の子らしい木野さんを羨んで言った台詞だったのに、逆に相手を最大限に傷つけることになってしまったとは思いもよらなかった。 傷ついた木野さんは自暴自棄になってとんでもないことを考えた。 自分だって負けないと。 良也と同じように課長も振り向かせてやろうと。 そしてその気持ちは良也との喧嘩によって引き返すことの出来ないものになり、話の流れによって営業で活躍するという当時の目標もやる気も取戻し今日まで奮闘したというわけだ。 「営業にも転属が決まったし、榊課長も私の話を聞いてくれるようになったし、何より自分のやりたかった仕事が出来るのが嬉しくって、私ここ最近今までにないくらい充実してたんです」 「で、なんで急に馬鹿みたいに暴走したんだ」 課長が対して興味もなさそうにソファの背に肘を乗せてだらしなく頬杖をついている。この人は今家にでもいるつもりなのだろうか。 私はそんな課長を横目に木野さんの話に耳を傾けた。 木野さんはそれまで床を見つめていた視線を上げて良也を見やった。 「…榊課長が今日出勤されること知っていたから昨日聞けなかったことを聞こうと出社したら良也が居て――」 廊下で言い争いになったということだ。 売り言葉に買い言葉。 良也は勢い余ってあろうことか、これから私と二人きりで第一資料室に行くんだから邪魔者はさっさとどっかに行け、とそれはもう意味深に言い放ったという。
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