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遠い、どこか遠い場所での自分。
身に覚えがない。しかし、本能が叫ぶ。これはお前に起きた現実だ。立ち向かった歴史だ、と。
そこに広がっているのは、燃え盛る大地、立っているのがやっとの蒸せかえる熱気。灼熱などが生易しいほどの火炎地獄だ。そして眼前には、邪悪な白き輝きを放つ神々しくも禍々しい『二つの太陽』。彼は、それを忌々しそうに睨んでいた。立ち向かおうと、打ち破らんと。しかし……
ブアッ!!
灼熱の炎が、彼を焼き尽くす。肉体はおろか、その魂までも。彼を形作っている全て、存在そのものを灰へと帰さんと……
プァーーーッ……。
「ん……」
ミャー……ミャー……。
遠くで鳴り響く、輸送船の汽笛。そして海猫達の声。それらの音が、岩場で立てかけられた釣竿を前に、うたた寝をしていた少年を夢の世界から現実へと引き戻した。
彼の名は遊薙司、年齢17歳。今いる港には、今晩の夕食を求めて魚を釣り上げにきていた。因みに、本日の収穫は七匹。
「寝ちまってたか。魚は……盗られてないか」
遠くを飛ぶ海猫を見つつ、バケツの中で泳ぐ魚に目をやる。
「……時間は、もう夕刻か。そろそろ戻るか。ハルと刻夜も、戻ってるだろうしな」
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