第1章

4/7
前へ
/7ページ
次へ
家族がこの赤い電車で繋がった引っ越しだった。 でも、引っ越してすぐ 父は体調を崩した。 入院することになった。 そして、引っ越してすぐ 母は迷子になった。 大きなカゴの付いた母の自転車は、新居の物置きに入った。 年老いて 少しづつ欠けた部分を、お互いの存在で補完していた夫婦のバランスが崩れてしまった。 母は夜中に買い物に行ったり、入院している父を捜しに出るようになり、その度に弟が救出に向かった。 真夜中で すぐに迎えに出られないワタシに代わって、母を新居に送り届けてくれたお巡りさんもいた。 ドアフォンの画像には、恥ずかしそうに下を向いて、背中を丸めた小さな母の姿が映っていた。 母が一人で住むことになってしまった、両親の新居。 そこでご馳走になる母の料理は ワタシを驚かせるようになった。 具のない味噌汁。水加減のおかしい白米。 ワタシは、母の作る美味しい餃子を食べることは もう出来ないだろうと思った。 いつもどんな時も笑顔で、いつもどんな時もワタシの味方である母。 母の作る餃子を食べれば、次の日には悩んでいた大抵の問題は"どうでもいいこと"か"なんとかなること"に変わった。 そんなワタシの母を病気が消していく。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加