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ブライスは目を見開いたまま,2,3度首を横に振って優を見つめた。
「…優の言うことがよくわからない。…俺は,優のことを3年前と変わらず愛している。…いや違う,今の方が,前よりもっと愛している」
言うと,おもむろに立ち上がってドアに向かった。
「ちょっと出てくる…」
そのまま部屋を出て行った。玄関のドアが閉められる音に続き,車のエンジンの音がしてすぐに消えた。
薄暗い部屋の中で優志は微動だにせずに座っていた。
アセナが部屋に入ってきて優志の横に座った。
「…ユウシ,大丈夫?」
「はい…」
「ユウシ,あなたに知っておいてほしいことがあるの。ブライスとあなたがどうなっても…私は,あなたのことが大好きよ」
「…ありがとうございます。俺もあなたが好きです」
アセナは優志の肩を抱いた。
「ユウシ,私たちに言わないでおきたいことがあるのなら,それはいいの。無理に話そうとしなくてもね」
優志はほんの少し頷いた。
「でも…嘘はつかないでね,みんなが不幸になるから」
優志の身体が硬直した。
ブライスは波音を聞いて横たわっていた。雲間に星が見えるはずだが,ダウンタウンの明かりのせいで鮮明には見えない。
今年になって初めてボートで出た湖は,夜の水面を滑る風のせいで冷気を感じる。ブライスは,玄関のフックからひっつかんできたジャケットの襟を立てて首に巻き付けた。
目を瞑ると,ここで優志と抱き合ったいくつかの夜が浮かんでくる。胸に,息づいた優志の身体の重みさえ感じるほどだ。
―真っ直ぐで
明るくて
恥ずかしがり屋で
情熱的で
俺の魂を捕らえた,運命の相手
―…と,思っていたんだが,俺に嘘をつくとは…。
ブライスは自分の胸をかき抱いた。
―なぜ,優は母親が居るところで寮の話をしたのか…。
冷静に話したかったからだ。俺とふたりだと感情的になる。
感情的になるのは困るんだ,優が…。
―なぜ,感情的になるのは困るのか…。
本音が,出るからだ。
優には隠しておきたい本音がある。
そして俺に,今まで一度だってついたことのない,嘘をついた…。
―今一番苦しいのは,誰だ…?
瞑っていた目を開けてローレルハーストのあたりを見た。家々に橙色の灯りがともっている。
―とりあえず,目を開ければ灯りは見えるな。
ブライスは起き上がり,オールを漕いで岸を目指した。
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