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家に戻ったブライスは,ためらうことなくゲストルームの前に立ち,小さくドアをノックした。
「…俺だ,優,入ってもいいか」
ややあってドアが内側に引かれて開いた。
「ごめん,優,もう遅いのに…」
優志が身体の一部だけをドアの陰から覗かせている。やはり一部しか見えない顔は下を向いている。
「優,さっきは途中で話し合いを投げ出して済まなかった。寮の件,俺は納得いかないけれど,優志の希望は尊重したいと思う。明日,一緒に大学に行こう。学生課の手続きに俺も同行する。それぐらい俺の希望が叶えられてもいいんじゃないかな」
それを聞いた途端,優志が思わず顔を上げたようだった。物事をスムーズに進めたくて,ブライスはあまり感情を込めずに言ったつもりだった。それでも少し恨みがましく聞こえたのではないかと心配になって,優志の表情を探ろうと逆光でよく見えない顔を覗き込んだ。
―…泣いていたのか…?
無意識に手が伸びて,優志を抱きしめていた。
「…っ…」
短く喉が鳴る音が聞こえた気がした。抵抗はない。ブライスは抱きしめた腕の片方を緩めて優志の頭を撫で,自分の頬をすり寄せた。
「優が何を考えようと,何をしようと,俺は優を愛してる。いつでも何でも頼ってくれ」
優志がブライスの腕の中で身をよじったのを感じ,ブライスは手を緩めた。優志の身体が離れていく。
「お休み,優…」
離れるスピードを緩めた優志にぐっと近づいて,ブライスは素早く口づけをした。はっと息を飲む音を聞いて,ブライスはドアを閉めた。
アセナはリビングにいて,ブライスを見るとソファから立ち上がって迎えた。
「あぁ,ブライス,待っていたのよ。…落ち着いた?」
「ん,心配かけてごめん。…お母さん,聞きたいことがある」
ブライスをソファに促したアセナは,何?とブライスを見返した。
「優志に…何か変わったところがあると思う?」
「ああ,そのことね…。正直に言うと,大ありよ。何かがあったようね。でも,あなたのことを嫌いになったということではないはね,あなたをとても意識しているのが分かるから。ということは,ユウシ自身に関することだわ…」
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