湖の約束 3

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「…良かった。俺もさ,優志が俺のことをもう愛していないなんて,これっぽちも感じていないんだ。寮の件は優志の思い通りに進めることにする。俺はできるだけ優志に寄り添っていく。優志の本当の問題が何なのかを見極めて,優志の力になろうと思っているんだ」 「…私もできることは何でも協力するわよ。あなたと優志が以前のように笑い合うのを見たいわ」 「ありがとう,お母さん。優志は幸せにならなきゃいけない奴だし,俺はもう『あきらめること』を止めたんだ。きっとうまくいく…」 ワシントン大学には学生,院生,教授向けに,数十人から千人以上まで収容できる,多くの寮と専用アパートが敷地内外にある。 優志が入ることに決まったのはレイク・ハウスと呼ばれる定員が100人程度の寮だ。大学の中心から徒歩で10分ほどかかる。入寮している学生のほとんどが理工系の院生で,他の学部に比べて夏休みも大学に残る連中が多いため,時期外れの入寮希望者も受け入れていた。 「…古くて…狭いな」  ブライスがスーツケースを置いて,あちこち見回している。 「壁紙が大分破れているし…ふんっ…と…窓の建て付けも悪くて開けにくい…。それに北向きだ」  空気を入れ換えようと,部屋に一つしかない上げ下げ窓をやっと開けて優志を見たブライスの眉間に,大きく皺が寄っている。 「今から入れる寮ってあんまりなくて,それも…室料が安い方を選んだから…」 「まぁ,学生は贅沢しなくてもいいけどな」  部屋にはベッドと机,本棚,小さめのワードローブといったわずかな家具があるだけだ。全てが古く,部屋は日本の6畳ほどに相当する程度だ。 「食事は学内のカフェテリアでとるし,勉強は図書館でする。研究室はまだ使わせてもらえないからね…。ここには寝にくる程度だな」 「優,昼食は一緒に取ろう。それから週末はうちに来るだろう?ウィンドサーフィンもしたいしな」 「…うん…。あ,今週末はハーレー家に呼ばれてる…」 「それ,俺と母親も呼ばれてるって」  にっこり笑ってブライスは優志に近づいてくる。  優志が寮に住むことになっても,ブライスは優志に恋人として接してくる。ぎくしゃくしないように気を遣いながらも,優志がスタートさせようとしている生活に,自分の場所を確保しようとあれこれ先手を打ってくるのが痛いほどわかった。  ―ブライ…ごめん…
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