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しまった,と思った。問い詰めたりはしない,そう決めていたのに。
「いや,いい。…優,気を付けて帰れよ。また明日な」
ややあってから,ブライスは抱きしめていた腕をほどいた。頷いて優志はブライスの横をすり抜け,出入り口に向かった。ドアで立ち止まって振り返った顔には,苦しみと申し訳なさと,それからブライスへの愛情が混じっていた。
優志は一人研究室に残っていた。もう夜の9時を過ぎていて他に学生はいなかった。
誰かが入ってくる気配がしてびくっと緊張した。こんな時間に誰かとふたりきりになってはだめだ,そうブライスに釘を刺されていたじゃないか…。
―ああ,ユウシ,君だったのか,がんばっているね…
―ところでユウシ,ちょっと耳に挟んだのだけど,君,ブライスっていうボーイフレンドがいるの…
頭が切れて,いい男らしいいね…
ね,ブライスはどんな風に君に触れるの…
どんな風に君にキスするの…こう…かな…
―やめてくださいっ…
―僕をブライスだと思ってみてごらん…
ほら,こんなになっているよ,ユウシ,…ブライスを思うとこうなるんだ…
―やめて…ください…いやだ…やめてっ…
―ユウシ,とても感度がいいね…ブライスがそうしたの…ブライスの手が…
ああ,ブライスが欲しいんだね,わかるよ…
可愛そうに…ブライスは今ここにいないからね…
ユウシ,僕をブライスと思って良いんだよ…
―ん…ん…いやだ…
―ユウシ,可愛いね,僕をブライスだと思って身体が反応してる…
気持ちいいんだね,ブライスに触られて…
ユウシ,これは,ほら,ブライスの…
僕がブライスの代わりに…ほら…ここも…
ユウシ,ブライスと繋がりたいと思っているんだね…
―ユウシ,今は僕がブライスだ,だから,良いんだよ…
「あ…あぁ,やめてっ,先生っ…」
優志は自分の発した言葉で目を覚ました。
暗い部屋にカーテンのない窓から明かりが差し込んで,天井が白っぽく見えた。
「はぁっ…はぁっ…はぁ…あ…あ…」
自分が仙台ではなくシアトルの寮にいるのだとわかるまで,しばらく時間がかかった。
「何でこんな夢を…う,うっ…」
優志は枕にうつぶせになった。荒い息が嗚咽に変わって明け方まで止まらなかった。
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