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「ブライス,君の日本人の友だちさ,やばくないか?」
「…何だ,いきなり…」
夕方7時を過ぎてもまだ陽が残っている研究室で,ブライスはプリントアウトした設計図とコンピュータのモニターの立体図を見比べていた。マットはノックもせずに入ってきたのだ。30分ほど前に夕食を食べに行くと出て行ったはずだ。
「俺の理学部の知り合いにレイク・ハウスの寮生がいてさ,ユウシと同じ階にいるんだけど,…最近,夜中にうなされているらしいよ,あの子」
「……」
「そんな話が先週末からレイク・ハウスであったそうだ。今日夜明け前に,奴がたまたま廊下にいて実際に聞いたって…」
マットがそこで言葉を切った。続ける風がないからブライスがマットを睨んだ。
「何で止めるんだ」
「…聞きたい?」
「言うつもりがないなら,帰った方がいい」
「んー」
マットが言いにくそうにして,ブライスの机の上の設計図に視線を落とした。
「あのさ…『もうやめて』って叫ぶらしい」
「…何だそれは」
「俺の推測を言ってもいいの」
「推測なら不要だ。言っていいのは事実だけだ」
「先週よりも今週に入ってからのほうがひどいらしい。うなされた後は泣いてるんじゃないかって。…あとは自分で推測して」
ブライスはモニターに目を向けた。
「…あの子のことで君も苦しんでいるみたいだから,何だか俺は君に同情しちゃってさ」
「同情も不要だ,マット」
ブライスはレポート用紙のパッドに数字を書き始めた。
「…君は明言しないけど,君があの子を恋人として扱っているのは誰の目にも明らかだ。それなのに,君たち…普通の恋人同士がすること,してないだろう?」
「他人の性生活を推測するな」
マットは頬の横に溢れた巻き毛を耳の上に掻き上げた。
「俺さ,あの子の代わりになってもいいよ,ブライスなら…」
「それ以上何か言ったら,お前のレポートのデータを消す」
「うわぁ,ひでぇなっ。わかったよ,俺もう帰るから」
マットはドアまで歩いて,くるりと振り返った。
「ねぇ,俺が君のこと好きなの伝わってるよね。君にその気がちょっとでもあったら教えて。俺のブロージョブは最高なんっ」
マットのくるくるした髪の毛をかすめて,レポート用紙のパッドが飛んでいった。
「おっと,また明日ね」
慌ててドアが閉められた。
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