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ハーヴィッツはブライスの存在を完全に無視して,優志のモニターを見るために背中を丸めて顔を近づけた。お気に入りの子どもを見つけた時のように優しく微笑んでいる。離れた所で助手が学生にアドバイスをしているのに乗じて,低い声で優志に話しかけた。
「ユウシ,ここで会えてうれしいよ。君のような優秀な学生と一緒に研究に取り組めるとは,指導者冥利に尽きるね」
優志はわずかにハーヴィッツの方に顔を向けて口を開いた。
「…お陰様でここに来られて…」
口が重い。再会を喜んでいるとは思われない様子だ。
「相変わらず奥ゆかしいね…そこがいいところだがね」
「優志,作業が遅れている。次のシートに移動して…」
ブライスは穏やかに話したつもりだったが,優志はびくりと反応して,資料とモニターに注意を向けた。
「…君は?」
背中を伸ばしたハーヴィッツが,縁なし眼鏡の奥から表情のない視線をよこした。相手にあまり興味がないと言い放つような眼差しだ。
「宇宙航空工学修士課程を修了したブライス・ジョーンズです。数年来の友人である優志の受講をサポートしています。許可は…」
もう一人の准教授を探した。
「あちらのスミス准教授から取り付けてあります」
「ああ,そうか。しかし…僕が来たからもう大丈夫だよ。クラスサイズからして3人の指導者で十分だし,君も自分の時間を研究に当てられる。僕は日本で2年半もユウシを指導する立場にあったから…」
優志の頭部を愛おしそうに見下ろした。
「…彼が何を欲しているのか,何が必要なのか,よく理解できるようになったんだよ」
唇が満足げに横に伸ばされた。
「そうなるために,先生はかなりの時間を費やしたようですね。しかし,学生理解は先生の趣味のようですから,あまり苦では無かったのでしょうね」
ハーヴィッツがゆっくりとブライスを見やった。ブライスは動じることなく相手の険しくなった視線を真正面から受け止め,自分がこの話題について正確に知っているのだと知らしめた。
「…無駄口をたたきたいのなら,カフェテリアにでも行くべきだね,ジョーンズ君」
ハーヴィッツはくるりと後ろを向き,優志のモニターを確認してすぐに他の生徒の席に移動した。
―無駄口は俺も嫌いだ。だから言わなかったんだけどな…優志と俺は挨拶したその日にわかり合って,3週間目には分かち合ったってことをさ…
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