湖の約束 3

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講座の内容そのものは興味深かった。ハーヴィッツが母校カリフォルニア工科大学で関わった,航空機の垂直着陸の原理や実現化に向けてのプロセスを演習で辿る構成が良かった。優志を含め学生が熱心に取り組む様を見て,ブライスは講座中は問題がないと結論づけた。 グループ分けして演習を続けた時,優志は3人のグループのデータ管理担当となった。時折近づいてくるハーヴィッツに緊張しながら,他の学生に合わせて活動し,少し活発さを取り戻していた。  関係解消を望んだ優志だったが,昼はブライスに誘われカフェテリアに付いてきていた。週末を別々に過ごして人恋しくなっている様子だった。  優志は目の前のパスタをさっきから何度もフォークでつついている。 「優,明日の午前の講座で俺のサポートは最後にする。指導者が3人いるのなら優志へのサポートも十分だと思うからな。明日はスミス准教への挨拶みたいなもんだ」  顔を上げて優志はこくりと唾を飲んだ。 「…そう,そうだよね。俺も大丈夫だと思うよ」 「その代わり,夕方の復習は今まで通り手伝わせて。きちんとこの講座を終えることは優志にとって良い経験になるよ。3年前の講座より随分実践的だ」 「ブライス,もう…俺に構わなくていいよ…」  言葉とは裏腹に,優志の顔は少しだけ活気を取り戻して上気していた。 「優…俺は『関係解消』に同意していない。解消するような簡単なものでは無いと思っているよ。それに3年来の親友に手を差し伸べるのは当然のことだ。俺たちは科学者であり技術者だ。少なくともそうなろうとしている者同士だ。チームで協力し合うのは基本中の基本だろ」  勝手にチーム論を持ち出したが,優志は反論する気配はない。恋人ではなく親友という言葉に安心しているようにも見える。 「…迷惑を掛けるけど,復習に協力して…ください」 「他人行儀だな,もっと俺を頼れよ,優」  ブライスの笑顔は,いつものように信頼できる大人のものだった。
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