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「それで全部ではないだろう…。でも,優,前に進むぞ。何があっても俺は優のそばにいるから。優を愛しているから…。これからもずっと優を愛するから…」
ブライスはそっと唇を合わせ,それから強く押しつけた。ブライスの唇が熱くて,優志の冷えた唇にも少しずつ熱が産まれた。
唇を離すと,ブライスは名残惜しそうな表情を浮かべ,それを振り切るように言葉を続けた。
「寮に行って服を着替えておいで。講座の教室に戻るまでに,これから何をすべきかを考えてくるんだ。俺はその間講座で優のやり直しの部分を入力しておく」
揺るぎない物言いに,優志は安心感を覚えて頷いた。
「夕方,寮の前で待っている。何か食べるものを手に入れておくから」
「ん…」
声らしきものが出た。
「そして最後に…優,いやなことがあったらはっきりと拒絶するんだ。力に屈してはいけない」
優志の目が大きく開かれ,焦点がぼやけた。
「忘れないで,俺がいる…優のそばにいる」
優志を抱いている腕に再び力を込めた。優志の視線が戻ってきた。ブライスへの信頼が目に宿っているのが見て取れた。
「わかった…ブライが…そばにいる」
ブライスは大きく頷いた。
ブライスが教室に戻ると,驚いたことにマットが優志のグループで作業していた。グループの学生の表情は和やかで親しげに言葉を交わしている。その間,マットはちらちらとある人物の後ろ姿を追っている。
ブライスを見つけてスミス准教授が近づいて来た。
「ジョーンズ君,ユウシはどうしたかね」
「…頭を冷やしたので寮に戻りましたが,もうすぐここに来ます。で…」
ブライスが向く方をみて,スミス准教授はにこりとした。
「ああ,マットだね。君たちがここを出て行ったあと私が廊下に出ると,そこにいたのだよ。それで手伝いを申し出たから,例の優志のやり直し入力を頼んだのさ。なかなか気が利くからね,彼は…」
「はぁ…」
助手とマットの協力で,優志が戻る前にブループの入力は終わり,ブライスとマットは廊下に出た。
「助かった。優志に代わって礼を言うよ,ありがとう」
「んっふふー。タイミングいいでしょ,俺。お礼は俺とデー」
「何でここにいたんだ?」
「あっ,えー,んー,…虫の…知らせ?」
「そんなにハーヴィッツを見たかったのか」
「そ,そ,そんなことは,全っ然ないよ」
マットの声が裏返っていた。
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