湖の約束 3

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「それで全部ではないだろう…。でも,優,前に進むぞ。何があっても俺は優のそばにいるから。優を愛しているから…。これからもずっと優を愛するから…」  ブライスはそっと唇を合わせ,それから強く押しつけた。ブライスの唇が熱くて,優志の冷えた唇にも少しずつ熱が産まれた。 唇を離すと,ブライスは名残惜しそうな表情を浮かべ,それを振り切るように言葉を続けた。 「寮に行って服を着替えておいで。講座の教室に戻るまでに,これから何をすべきかを考えてくるんだ。俺はその間講座で優のやり直しの部分を入力しておく」  揺るぎない物言いに,優志は安心感を覚えて頷いた。 「夕方,寮の前で待っている。何か食べるものを手に入れておくから」 「ん…」  声らしきものが出た。 「そして最後に…優,いやなことがあったらはっきりと拒絶するんだ。力に屈してはいけない」  優志の目が大きく開かれ,焦点がぼやけた。 「忘れないで,俺がいる…優のそばにいる」  優志を抱いている腕に再び力を込めた。優志の視線が戻ってきた。ブライスへの信頼が目に宿っているのが見て取れた。 「わかった…ブライが…そばにいる」  ブライスは大きく頷いた。  ブライスが教室に戻ると,驚いたことにマットが優志のグループで作業していた。グループの学生の表情は和やかで親しげに言葉を交わしている。その間,マットはちらちらとある人物の後ろ姿を追っている。  ブライスを見つけてスミス准教授が近づいて来た。 「ジョーンズ君,ユウシはどうしたかね」 「…頭を冷やしたので寮に戻りましたが,もうすぐここに来ます。で…」  ブライスが向く方をみて,スミス准教授はにこりとした。 「ああ,マットだね。君たちがここを出て行ったあと私が廊下に出ると,そこにいたのだよ。それで手伝いを申し出たから,例の優志のやり直し入力を頼んだのさ。なかなか気が利くからね,彼は…」 「はぁ…」  助手とマットの協力で,優志が戻る前にブループの入力は終わり,ブライスとマットは廊下に出た。 「助かった。優志に代わって礼を言うよ,ありがとう」 「んっふふー。タイミングいいでしょ,俺。お礼は俺とデー」 「何でここにいたんだ?」 「あっ,えー,んー,…虫の…知らせ?」 「そんなにハーヴィッツを見たかったのか」 「そ,そ,そんなことは,全っ然ないよ」  マットの声が裏返っていた。
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