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俺のことは既に遼に確認済みだったはずだと,ブライスは苦々しく思った。
「あまりに突然だったから何も言い返せなくて,それが彼への答となってしまったんだと思う。その時彼は俺がゲイだと確信したんだ」
「他にも学生がいたのにそんな話を?」
「そこにいた連中は…英語が不得意だったんだ」
「……」
「…しばらくしてクリスマス前の祝日に,俺,誰もいないと思って研究室で卒論の口頭試問の準備をしていたら,日が暮れた頃,彼が来て…俺を…」
「無理…矢理…?」
「んん…ん…,うまく説明できないんだけど,俺がブライスのことを恋しいだろうって…自分を…ブライスの代わりと思えって…。繰り返し言われているうちに,何が何だかわからなくなって…」
「…俺の代わりだって?」
その頃は自分も優のことが恋しかった頃だ,優だってそうだったろうと,ブライスは優志の気持ちを自分のことのように理解した。
「俺が,…俺が気持ちを強く持っていたら…あんなことにはっ…」
ブライスは頭を深く垂れる優志の背中を抱きしめた。俺もものすごく人肌が恋しかった頃だ…,ブライスの胸にその頃の感情がじわりと沸き上がってきた。
「自分を責めるな。奴は多方面で優を指導していて,心理的に優位に立っていた。それに俺の情報を得て優の弱みにつけ込んだんだ。奴は用意周到に準備していたんだ。だから,優,自分を責めるな」
優は嗚咽していた。
「…卒論の口頭試問の直前に,彼と指導教官の教授と3人での打ち合わせが2度あって,でも2度とも教授が予定より早く帰ってしまって…」
「あとは同じパターンか…。その教授が早く帰るように仕向けたんだな…」
ブライスは激しい憤りと,抗いきれずに屈した優志の哀しみを同時に感じて胸が張り裂けそうになった。
「今思うと,本気で抵抗したら絶対に逃げられたと思う。…何でそうできなかったのか,悔しくて悔しくて…。だから…」
優志はブライスの脚の間で身体の向きを変えた。すでに夕暮れを迎えていた部屋は薄暗く,優志の顔の涙で濡れている部分が鈍く反射して見えた。ブライスは優志の両頬を親指でぬぐった。優志の目は泣き疲れた子どもの目のようだった。
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