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「優は俺に全てを話したのだろうし,俺には優志を責めることは何一つないってこともはっきりしている。だから,愛される資格が無いなんて考えるな。
あとは優がハーヴィッツを乗り越えることだ。きっとできる。…優は一人ではないから,俺がいるから」
優志はブライスを見た。話す前の絶望的な気持ちでは無くなっていた。
「俺との関係は…お互いが,自分の気持ちに嘘をつかなければ…」
収まるべき姿に戻るよ…そう思って,ブライスは温かい笑みを優志に向けた。
「優,今夜俺はここに留まればいい?それとも,一人になりたい?」
一切押しつけはない。望むことを選べば良いだけ,と優志は素直に受け止めた。
「一人…になって,これからのことを考えたい…」
「わかった。優,言いにくかったことを俺に打ち明けてくれて,本当に良かったと思っている。俺は明日からの自分たちに希望をもつことができる。
今日はこれで帰る…。優,しっかり眠って明日に備えるんだ」
「…ありがとう,ブライ…」
優志の頬を右の掌で包み,愛してる,と言ってブライスは手を放した。
外はもう薄暗かった。ブライスは車でボート乗り場に向かい,夜の始まりの空と同じ藍色の湖水に向かってボートを進めた。いつもの場所まで来ると,船底に身体を滑らせて横たわり,空を見上げた。星が瞬き始めていた。
―優が俺に隠していることはもう無い。
そして俺は…。
この状況は,俺がしてしまったことと何か関係があるのだろうか…
ブライスの心臓の鼓動音が,湖のさざ波より大きく聞こえた。
翌日から3日間,優志は講座に没頭した。昼も講座の仲間と連れ立ち,そもそもゆっくり食べることもできなかったが,以前よりは食事量が増えていた。
ブライスが見かけて話しかければそれなりに答えたが,立ち話がせいぜいだった。夕方はブライスに演習について聞きに来ることもなく,一人図書室で勉強していた。
それでもブライスは不満ではなかった。短時間であっても優志が臆することなく真っ直ぐ自分を見て話すようになったからだ。
講座最終日の午後,ブライスはコミュニケーションアプリで優志に連絡を取ってみた。
講座の閉講式が終わり,夕方クラブに繰り出すことにしている,と返事があった。
―きっとそこにハーヴィッツが現れるんだろう,優,頑張るんだ…
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