湖の約束 3

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その晩打ち上げに集まったクラブは,3年前に2,3度入ったクラブより客層が上で大人っぽい感じがした。 優志は今回の講座では他の参加者に追いつくのが精一杯で,反省ばかりが頭に浮かぶ。入門講座とはいえ米国人学生が多かったから仕方ない面もあったが,グループに迷惑をかけ続けたことは事実だった。  打ち上げの場では明るい米国人学生が数人話しかけてくれ,中には小型惑星探査機に興味のあるという学生もきて深く話し込むことができた。優志は必死に会話していた。  9時を過ぎた頃だった。普段深酒をすることがない優志は,ビール3杯程度で軽く酔いを自覚していた。クラブの一角がわっと盛り上がったのに気づいてそちらを見ると,ハーヴィッツが学生に囲まれているのが見えた。薄暗がりでも魅力的な笑顔だとわかった。  優志は,その場を逃げ出したいという強い気持ちに駆られたが,踏みとどまった。 ―終止符を,打たなければ…,そうしなければ次に進めない… 優志は集団から離れ,出入り口に近いテーブルに一人座った。視線が合うことは無かったが,ハーヴィッツが自分の存在を確かめているに違いないと思っていた。  20分程して,優志の後ろから声を掛けてきた。 「やぁ,ユウシ。君と話したかったよ」 「…ハーヴィッツ先生」 「隣に座ってもいいかな」 「…先生,お話ししたいことがあるんですが…」  早く済ませたい,と思った。抑えた声からでもそれが伝わったのか,ハーヴィッツは笑顔を引っ込ませた。 「外に出ようか」  クラブの建物の脇の小路で優志はハーヴィッツに向き合った。先に口を開いたのはハーヴィッツだった。親しげに優志の肩に手を乗せる。 「講座は大変そうだったね。これからこっちの学生と渡り合っていかなければならないから,あの程度で根を上げていられないけれどね」 「…十分覚悟しています」  優志は肩を引いてハーヴィッツの手から逃れた。 「そうだね,私も力になるよ。ところで,君のボーイフレンドはあまり君を助けてくれないようだね…」 「…そのことは先生には関係のないことだと思いますが」 「関係…あるよ。君たちがうまくいっていないのなら,私が君に支援したいと思っているんだ。支援というか,ユウシ,私たちはパートナーになるといいんじゃないかな,ほら,身体の相性もとても良かったし…」
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