湖の約束 3

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空港から北上してシアトル市内を抜けると右手にワシントン湖が見えてきた。青空を映して穏やかに小さな波を立てている。  湖を見たら優志の気分も高まるかとブライスは期待していた。しかし,優志は疲れた感じで座席の窓際にもたれかかり,目はうっすら開いている程度で,話しを楽しむ雰囲気も,ましてやブライスと触れ合おうという雰囲気も感じられなかった。   大学も抜け,ローレルハーストの坂道を登る。勾配が緩やかになり,湖にせり出したこの半島の頂上が近いと感じる頃に,ブライスの家が現れる。湖を背にして道路の左側に建つ,白っぽいペンキを塗った木造の平屋だ。  車寄せに車を止めると,アセナが玄関から飛び出してきた。 「ユウシ!」  助手席から降りた優志は,アセナに強く抱きしめられた。それから両頬にキスをされ,再び抱きしめられた。アセナにとって大切な人として扱われているのが,ひしひしと感じられた。 「ああ,ユウシ,私の息子。2年ぶりだわね…ずっと待っていたわ。あら,あなた,ちょっと痩せたわね…」 「アセナ,会えて嬉しいです。そうですね,こっちに来る準備で忙しかったから…体重は落ちたかも知れません」 「それじゃ,私のお肉料理で体重を取り戻してね。あなたが,これから何年もこっちにいられるなんて夢みたい。さ,いらっしゃい,私の息子」 「ありがとうございます」  やっと優志の笑顔を見ることができて,ブライスは傍らで喜んだ。  優志とブライスでスーツケースを1個ずつゲストルームに運び入れると,シャワーを使ってからリビングに行く,と優志はバスルームに消えた。  3年前,優志が初めてシアトルに来て4週間滞在した間に,ブライスと知り合い将来を共にと誓う仲になった。 その年と翌年のふた冬,ブライスが優志の住む仙台を訪れた。優志もブライスと知り合った翌夏にこの家にブライスを訪れた。 アセナは優志を「私の息子」と呼んでいる。ふたりは,交際を始める前にブライスの母親アセナの公認を勝ち得ていた。  優志が大学4年の年は,卒論とワシントン大学大学院進学の準備があるからと,姉由香の結婚式以降お互いに行き来しなかった。それはブライスの提案だった。だからふたりが会うのはほぼ1年ぶりになる。
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