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もう少しで寮が見える頃,スマートフォンにアプリの通知音が鳴った。
―優,どうしてる?
「…ブライ,ブライ…ブライっ」
夢中で通話ボタンを押した。すぐに繋がって,今一番そばにいて欲しい人の声が聞こえた。
「優…」
「ブライっ」
「すぐ行く」
ブライスは寮の北側の道路に車を止めていた。あっという間に寮の入り口に現れ優志を見つけた。優志の涙に濡れた顔を見て強く抱きしめた。
「ブライ,…終わった。全て終わったんだ」
「ああ,優,がんばったな…優」
その晩,優志は狭いベッドブライスと抱き合って眠った。寝入る直前まで泣いていたが,優志の涙が渇れた先には深い眠りが待っていた。
ブライスは優志の背中をいつまでも優しくさすっていた。
優志は,ブライスの提案を大人しく聞き入れて週末をローレルハーストで過ごした。ゆっくりしたわけではなく,ハーレー家のボウの散歩,ジョギング,テニス,ボート漕ぎ,ウィンドサーフィンと,起きている時間はほぼ身体を動かして過ごした。
この二日間,ブライスは自分の感情を押しつけることはなかった。自然な範囲で優志の身体に触れて親密さが失われないように気を配っていた。
アセナまでもが食事時に男ふたりを働かせた。アセナが得意な肉料理のスパイスを教えてくれたのには,優志も素直に喜んだ。その代わりに,と台所の床の水拭きを含む大掃除をお願いされたときは,正直騙されたと思ったが。
とにかくそうしてへとへとになって夜を迎え,ゲストルームのベッドでブライスにスプーンセットの添い寝をしてもらうと,優志はものの3分で眠りに落ちるのだった。
「ユウシ,大分元気になったじゃない…」
日曜の朝、庭木に水やりをする優志を見ながら,アセナがブライスに言った。
「そう思う?」
「何だか…心配事が無くなったって感じね」
「そうかもな。夏季講座も終わったし,ほっとしたのかもね」
「…あなたたちは…その…どうなの?ブライス,心配してたのよ…,あなたがユウシに振られちゃっんじゃないか…とか」
「お母さん,…それは回避できたから。だからこうしてうちに連れてきたから…」
「そう…よね…」
そう答えたものの,まるで中学生のスポーツ合宿みたいな二人の過ごし方を,アセナはどう考えたらいいのか見当がつかなかった。分別のある二人の若者がすることだから,あれこれ詮索するのは止めようと思った。
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