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夏休み中は大学に来ない教官もいるが,授業のない時間を自分の研究に使うため大学に残る教官もいる。
―あいつも研究環境を整え直すために,大学に残っていると聞いた。
教官室棟の教授陣の部屋は把握しているが,新参のハーヴィッツの部屋だけ知らなかった。順にドアに掲げられたネームプレートを見ていくと一番端の位置にあった。
ノックすると部屋を移動する足音と共に「誰?」と聞こえた。
「修士科のブライス・ジョーンズです」
ドアが開けられた。
「やぁ,ジョーンズ。…何の用かな?」
ベージュの麻シャツに,白っぽいコットンパンツという爽やかな装いだ。ブライスの訪問を意外と感じている表情を露わにしている。ブライスはハーヴィッツの目を見て静かに答えた。
「私の友人とハーヴィッツ先生に関係のある件についてお話したくて来ました。15分ほどで済むと思われます,聞いていただけませんか」
ハーヴィッツは少し眉根を寄せて不快感を表したが,入りなさい,と言った。
部屋の隅には未開封の段ボールが10箱近くあり,本棚が半分ほど埋まっていた。作業デスクにはコンピュータとモニタ―が数台乗っていてその周りに資料が雑然と置いてある。
しかし窓際にある机はきれいに整えられていた。ハーヴィッツはその机の向こうの椅子に座り,ブライスに手前の簡素な木製椅子を勧めた。
「座って。コーヒーを飲みに来たわけでも無いだろうから,何も出さないがいいかな」
ブライスは椅子を引いてハーヴィッツの机から少し離し,座って脚を組み両手をその上で組んだ。
「ええ。…先生は,この大学院の修士課程に留学する佐々木優志の,卒論指導と英語の資格取得を含めた大学院留学の準備に関わったんですよね」
「そうだが」
「これから話すことは,先生と彼の間に存在する問題を人間的に解決することを目的としています。法的な措置などに依ることなく…」
「法的な措置…?」
ハーヴィッツの表情は一気に険しくなった。
「…に依らずに,です。私は,彼が解決しきれない事柄を彼の代理として解決に導き,彼がひいては先生も大学での研究やご指導に専念できることを望んでいるのです。
優志によると,…先生は昨年末から今年始めに掛けて,優志に3度性的な嫌がらせを…セックスを強要しましたね」
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