湖の約束 3

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「実は…私は,優志が苦しんでいたことを既に本大学内のLGBT団体の相談窓口に文書で相談案件として送付してあります。その団体は事案が生じた日本の大学の倫理委員会にこの件の概要をメールで送付したそうです。 事案の人名と国籍,肩書き等は全て伏せてありますので,今のところ日本の大学側が人物の特定はできません。 メールでは,現在本大学内で事案に関係する当人同士で解決を図ろうとしているところである,と結んであります。  でも,先生…,もし問題が解決されなかったり,事態が膠着状態に陥ったと判断されれば,日本の大学側にも関係人物に関する情報が伝えられて,倫理委員会では調査を始めることになります。 当然こちらの大学側にも調査依頼が来ます」  ハーヴィッツが椅子から立ち上がった。顔面が蒼白で唇の周りの髭が震えている。 「き,君がしていることは,ブラックメールだぞっ」 「先生,今説明したことは既に生じた事実の報告です。私が先生を破滅させるために反社会的な行動で『これから起こすと脅す』ブラックメールではありませんよ」 「…っ」 「私が先生に提案した解決方法は,優志本人とLGBT団体の担当と相談の上で決めた方法です。実行するかしないか,先生がご判断ください。もちろん,私からは同意されて解決を実行することを強く勧めます。再度言いますが,事案の深刻さに対して非常に受け入れやすいものです」 「…くっ」 「それから,もし倫理委員会から調査が依頼された場合,自動的にLGBT団体から本大学側に先生の今までの恋愛に関して問題が生じたケースも伝えられます」  ハーヴィッツが目を剥いた。 「具体的に言うと,カルテック(カリフォルニア工科大学)で先生との恋愛関係に悩んだ学生が鬱状態になったケース,そして本学で先生と性的交渉をもった未成年学生の保護者が大学側に相談したケースです。 非公式ではありますが,それぞれの学生の証言は取れています。その他に調査に協力してくれると明言している学生が2名おります」  ハーヴィッツは呆然として椅子に力なく座り込んだ。 「先生,優志も早くこの悩みから解放されたいんです。そして多分先生も…いろいろなことから解放されるはずです」  ブライスは立ち上がった。
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