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「午後4時に優志からこちらの教官室の固定電話に電話を掛けさせます。優志が使うのは学内の公衆電話です。
先に提案した言葉が,先生から優志に伝えられればそれで終了です。私がLGBT団体に相談事案の解決を報告し,日本の大学の倫理委員会にもその旨が伝えられます。
では,失礼します」
優志はゆっくりと受話器を置いた。閑散としたカフェテリアの公衆電話のブース内に優志とブライスはいた。
「…信じられない…。ハーヴィッツ先生が、日本で俺にしたことを謝ってきた…」
「…それだけ?」
「それから、もう俺に迫ってくることはないし、そもそも話しかけることも無いって…。驚いた…」
「どうする,優?」
「もう関わってこないのなら,俺はそれでいいよ」
優志が穏やかに微笑んでブライスを見た。
「ん,じゃこれで一旦解決だな…」
ブライスはすぐさまメッセージを一件打って送った。
「どうして先生はこんなに変わったんだ…?」
優志は腑に落ちない表情だ。金曜のハーヴィッツの剣幕を思うと当然だ。
「俺,先週,優志の件を匿名で学生課に相談したんだ…で,LGBT団体を紹介されて…,そこが今日奴に連絡を取ると言ってた」
「そうだったんだ…その団体から連絡がいって,まずいと思って俺に謝罪したのか…」
「勝手に相談して悪かった…。さっきメールで問題が解決したってその団体に報告したんだ。向こうに優志の名前は一切伝わってないから…」
「んん,悪くないよ。あんなに悩んでいたことが解決して感謝するよ。ありがとう,ブライ」
まっすぐ見つめてくる優志に,ブライスは頷いて微笑んだ。
「良かったな…」
―優がこういうことに疎くて,本当に良かった…
その晩,ふたりで寮に向かった。
「寄っていいか?」
「ん…」
優志に緊張が生まれるのがわかる。ブライスはそれを認めて目を細める。6月に来た頃はこういう反応にいらつき傷ついたが,今は違う感情が生まれる。
―新しい関係を築く感じも,悪くないな…
部屋でその週に学んでおくことを話し合い,遊ぶ予定を立てたり,週末の過ごし方のアイディアを出し合ったりした。
「釣り!釣りは面白そう。俺も仙台で二,三度しかやったことがなかったけど,川釣りしてみたいなぁ」
「じゃあ,決まりだな。どこかで川釣りの道具を借りて…場所を探して…」
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