湖の約束 3

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「午後4時に優志からこちらの教官室の固定電話に電話を掛けさせます。優志が使うのは学内の公衆電話です。 先に提案した言葉が,先生から優志に伝えられればそれで終了です。私がLGBT団体に相談事案の解決を報告し,日本の大学の倫理委員会にもその旨が伝えられます。 では,失礼します」 優志はゆっくりと受話器を置いた。閑散としたカフェテリアの公衆電話のブース内に優志とブライスはいた。 「…信じられない…。ハーヴィッツ先生が、日本で俺にしたことを謝ってきた…」 「…それだけ?」 「それから、もう俺に迫ってくることはないし、そもそも話しかけることも無いって…。驚いた…」 「どうする,優?」 「もう関わってこないのなら,俺はそれでいいよ」 優志が穏やかに微笑んでブライスを見た。 「ん,じゃこれで一旦解決だな…」 ブライスはすぐさまメッセージを一件打って送った。 「どうして先生はこんなに変わったんだ…?」  優志は腑に落ちない表情だ。金曜のハーヴィッツの剣幕を思うと当然だ。 「俺,先週,優志の件を匿名で学生課に相談したんだ…で,LGBT団体を紹介されて…,そこが今日奴に連絡を取ると言ってた」 「そうだったんだ…その団体から連絡がいって,まずいと思って俺に謝罪したのか…」 「勝手に相談して悪かった…。さっきメールで問題が解決したってその団体に報告したんだ。向こうに優志の名前は一切伝わってないから…」 「んん,悪くないよ。あんなに悩んでいたことが解決して感謝するよ。ありがとう,ブライ」  まっすぐ見つめてくる優志に,ブライスは頷いて微笑んだ。 「良かったな…」 ―優がこういうことに疎くて,本当に良かった…  その晩,ふたりで寮に向かった。 「寄っていいか?」 「ん…」  優志に緊張が生まれるのがわかる。ブライスはそれを認めて目を細める。6月に来た頃はこういう反応にいらつき傷ついたが,今は違う感情が生まれる。 ―新しい関係を築く感じも,悪くないな…  部屋でその週に学んでおくことを話し合い,遊ぶ予定を立てたり,週末の過ごし方のアイディアを出し合ったりした。 「釣り!釣りは面白そう。俺も仙台で二,三度しかやったことがなかったけど,川釣りしてみたいなぁ」 「じゃあ,決まりだな。どこかで川釣りの道具を借りて…場所を探して…」
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