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「ユウシはもう英語に問題ないね。問題なのはブライスとの関係だけか…」
「おい,…俺たちのことを詮索するのはやめろ」
「だって,ふたりを見ているとつきあい始めた7年生って感じ。ブライスはユウシに気を遣いまくりだし,ユウシはブライスにイカれているのに,まだヤってないってっていう時期…」
「バカヤロウ」
ブライスは地を這うような声で低く呻いた。
「で,俺には優しくないんだよな。あ~あ,誰か俺に優しくしてくれる人いないかなぁ~」
「お前,気になる人がいるのか?」
「は?…何で?」
「最近髪の毛がさっぱりしてるし,服も…どこで売ってるんだ,それ。」
ブライスが指さしたマットのピンクのシャツには,スティックを掲げる馬上の人間が刺繍されている。
「ん~,可能性を求めている?って感じ」
「そのストレートを意識した身なり…凄く嫌な推測が浮かぶんだが…」
「……」
「…おい,お前があいつと近づきたいとか思うんだったら,俺はお前と口きかないぞ」
「ブライスとユウシがあの人のこと嫌ってるのわかるけど,俺は詳しいこと知らないし…。実はあのあとずっと調べていたんだ,あの人の被害者のその後。興味深いぜ」
「大きい声で言うなよ」
マットが優志を見ると,コンピュータ画面と首ったけになっていた。ふたりの会話には全く注意を払っていない。
「…カルテックで鬱病になった奴,もともとその傾向があって高校時代から精神科の主治医がいたんだ。大学であの人との恋愛関係に悩んで鬱がひどくなったけど,そのあと克服している。今はカルテックに残って助手をやってて,男性のパートナーも居る」
「それは良かった」
「うちの大学生で,親が騒いだ子。あの人が日本に行ってからは問題なく学生生活を送って,今はオレゴンのナイキに勤務している。常時彼女がいる」
「ふん…」
「あとの奴らも,あの人と別れてからはほぼストレートに戻って,まぁ普通に生活しているよ。あの人をひどく恨んでるケースはないみたいだね」
「でも俺はあいつが,大っ嫌いだ」
「…俺さ,こんなにストレートの子を落とすあの人の魅力って何なのか,気になって…」
「お前はストレートじゃないよな」
「……」
「だから,そんな,いかにもな格好してるのか?」
「少しの可能性に賭けてみようかと…」
「それ,ダークマターを見つけるより可能性低いと思うが」
「ひ,ひどいっ,ブライス…」
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