151人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
マットの弟が牧場の仕事を休んで,川釣りに連れて行ってくれたこともあった。たいした成果はなかったが,終日自然の中で過ごし,ブライスと優志は心から解放された気がした。
優志は完全に本来の自分を取り戻し,誰に対してもに快活に振る舞えるようになっていた。マットの家族は優志のことをますます好ましく思い,マットもそれを認めた。
「ユウシがこんなに魅力的だったとはな。ブライスがユウシにぞっこんなのも納得するよ」
「お前,優志に横恋慕するなよ。そんなことをしたら,俺は容赦しないからな」
「恐っ!…てか,ブライス,俺はボトムだって…」
ふたりがシアトルに帰る日が来た。別れを惜しむ家族に感謝し,再訪を約束して牧場を後にした。
「夢みたいな時間だった…。マットが羨ましいよ」
「ああいう生活もありだな。現実は厳しいのかもしれないが,彼らは地に足の着いた暮らしをしているよな」
ふたりで2時間ずつ運転し,ワシントン州の南部でモーテルに入った。強行すれば深夜前にはシアトルに帰ることもできたが,前日に話し合って一泊することにしていた。
マットの家ではキスと抱擁以上のことはしていなかった。
道路沿いの小さなレストランで夕食を済ませ,モーテルの部屋に戻ると7時半を過ぎていた。優志が先にシャワーを使うことにした。
―正直,緊張する…。ここ,解しておくべきかな…
一応やれることは全てして優志は部屋に戻った。ブライスが近づいて来て優しく抱きしめた。
「…初めての時を思い出すな…。あの時,優はどこもかしこも良い匂いがして…」
今日もそうかな…,と続けられて優志は急激に恥ずかしくなった。ブライスの腕の中で俯く。
「可愛いな,優…堪らない。待ってて,すぐに戻る」
優志の頬にキスをしてその体から手をほどき,ブライスは浴室に向かった。
その後ろ姿を見送って優志はふうっ,と息を吐いた。シアトルに来てハーヴィッツのことが解決するまでブライスのことを直視できなかった。
今あらためてブライスを見ると,24歳という青年期の盛りにあるその匂い立つような男振りに,優志の呼吸が速くなる。
最初のコメントを投稿しよう!