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しげしげとブライスを見てくる。ハーヴィッツの態度は悪気なく脳天気にさえ感じられたが,ブライスは思いっきり不快感を露わにした。
「ユウシとよりを戻したのなら,彼も君もどんなにか幸せだろうと思っていたのだがね。性格の良い子だし,…何より,身体の感度がいいし」
「あなたと話す意味は無いようです。失礼します」
向けた背中にハーヴィッツが続けた。
「僕に抱かれながら君の名を呼んでいたな,『ブライ』って,何度も。悔しいがね」
何かがカチリとはまった様な気がした。ブライスはゆっくり振り返った。
「…先生,なぜ…あなたは俺の名前を知ったのですか。どうして優志が俺と,付き合って居ることを知ったのですか…」
―秋の終わりに,ハーヴィッツが突然俺のことを訊いてきた,と遼が言ってた…。どうして俺の名前を…?
「ああ,…あれは全くの偶然だったね。優志が男と付き合っているなんて,それまでまったく感じさせなかったが…。
11月の終わりに優志が一人で研究室にいたんだ。夕方だった。私も用事があって研究室に入ろうとしたら,彼が携帯電話で話をしているとわかった。研究室で電話するなんて珍しいことだったから,何となくそこで足を止めたんだ。
電話を切る間際に,周囲に誰も居ないと思ったのだろう,彼が小さな声で言ったんた,『俺も愛してる,ブライ』と。
それでいろいろ調べて君に辿り着いたというわけさ。驚いたよ,ユウシがゲイだとわかって。
それで彼を手に入れようと,歯止めがきかなくなってしまったかな…」
ブライスの立つ廊下が急に闇を増し,ブライスは我知らず外へと駆けだしていた。
―あの電話…,あれが事の発端だったのか!
ブライスは夕闇の中,車で乗り付けた運動施設の桟橋からボートに乗り込んで湖に出た。
覚えている…。
ブライスは,バンクーバーのデイヴィー・ストリートの安宿で一夜を過ごしていた。未明に浅い眠りから覚めて,優志が恋しくて声が聞きたくて堪らなかった
研究室にいる時間帯だとわかっていたが通話アプリで呼び出した。普段はそんな軽はずみなことはしなかったから,ブライスはその時のことをはっきりと思い出していた。
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