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―優,今どこ?研究室…?何してる?
スマートフォンから聞こえてくる優志の声はいつもと変わらず明るくて,今,周りに誰もいないと言ったから,つい,優志を愛おしく思う言葉を並べてしまった。
―俺も愛してる,ブライ,とっても…
耳に優志の声が蘇ってきた。
それを,あいつは聞いたのか…。そして俺のことを調べた。優志が男と付き合う学生だとわかったとき,あいつには優志がそれまでと全く違う存在に見えたことだろう,…ストレートの外見を持つ魅力的なゲイ…。
自分がしたこと…,それが優志の苦しみと何か関係があるのではないか,そんな疑念が消えることなくずっとあった。根拠はなかった。だから,考えすぎだ,ゲイなら大なり小なりみんなやってることだと自分に言い聞かせて,取れないとげのようにひっかかるその疑念を,無理矢理意識の奥底に押しやってきた。
―優志,俺は,何てことをしてしまったんだろう…
ブライスは長い時間,漂っていた。
どのくらい時間が経ったのか,ブライスにはわからなかった。時計も見なかった。暗い桟橋まで戻り,ボートのロープを杭にくくりつける。
そのとき,たったったっ,と桟橋の上をボートに駆けてくる足音がした。ブライスは登ろうとハシゴに手をかけたまま,動きを止めた。足音もブライスが乗っているボートのそばで止まった。
「…ブライ…?」
「優…」
お互い,相手がわかったのは夜の空にかかった雲の白さおかげおかげだった。
「どうしたんだ,ブライ。もう8時だ,…心配したよ。どこにいるのか連絡が取れなくて…」
「携帯…車の中だ…」
「そう…。アセナにも連絡したけどまだ帰ってないって言うし,研究室はもう閉まっていたし…,あとはボートしか思いつかなくて,ここでブライの車を見つけたから待ってた…」
「かなり待ったんだな」
「ああ…何かあった?ブライ…」
もう少し時間が欲しい,とブライスは考えていた。しかし目の前に優志がいる。
「…優,話が…したい」
喉が閉じ気味になって声が掠れた。
「え…ああ,いいよ。今,そこに行く…」
優志がハシゴをゆっくり下りてきた。ボートが大きく揺れないようにブライスは桟橋の板を掴む。ボートに足が着いて,優志はゆっくりと体重を乗せた。手探りで座席を探して座った。
「で,話って…?」
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