湖の約束 3

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「ああ…」  ブライスは遅れて漕ぎ手の位置に座った。徐々に薄闇に目が慣れてきて,優志の真摯な表情を読み取ることが出来た。 「話というのは…」  どこから話すべきか,考えていなかった。  何をどう取捨選択するか,決めていなかった。  しかし,すぐに思い直した。今の優志なら,整理できていない話も適切に理解するだろう。 ―取捨選択は不要だ…。隠し事は良い結果をもたらさない…。 全てを明らかにしたところで良い結果が得られるとも思えないが…  ブライスは今の状態から抜け出したかった。例え涙に暮れることになろうとも。 「今日,大学でハーヴィッツに会った…。あいつがどうして日本で俺の名を知ることになったのか,わかった…。  俺が研究室にいる優志に電話してしまって,優が『俺も愛してる,ブライ』と言ったのをあいつが偶然盗み聞きしたから。それまで,隙を見せないように気を付けていたのに…。優が俺と付き合っていると知って,ハーヴィッツが性的な対象として優に興味を持って…ついには暴力を…。  優…,全ては俺の電話が原因だったんだ。本当に済まない」 「そんな…」 「俺が電話をしたとき,…俺は,バンクーバーのディヴィー・ストリートにいた」 「……バンクーバー?」 「…ゲイストリートだ」  優志が息を呑む音が聞こえた。 「…そこで,男を見つくろって…ホテルでそいつを…抱いた。 一人になったとき,優志のことが恋しくなって,声が聞きたくて堪らなくなって,…研究室にいた優に電話をした」 「あ…」 「…それから,…12月のクリスマス前に,ポートランドのゲイストリートに行った。そこでも男を見つくろって寝た。優志があいつに…襲われたのと同じ頃だ…」  優志の呼吸が速くなっていた。   「…優,気づいていると思うが,俺は今…勃たない。6月からずっと優を前に盛らないようにしてきたから,そのせいかと思っていた。そういうふうに慣れてしまったと…。  でも今は,そうじゃないと考えている。俺が行きずりのセックスをしたことが,思いも寄らない結果をもたらしのではないか,そう,無意識に恐れていたんだと思う。  優に申し訳ないことをしていると,だから勃たないのだと思う…。  俺は,優にふさわしくない…,俺に愛想を尽かすだろ?…,俺たちは終わりなのかもしれない…,そうなっても仕方のないことを,俺はしたんだと思う」
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