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優志の呼吸が荒くなるのが聞こえてきた。
「…カップルでも別の相手と性交渉するゲイは多い。
でも,優志という人間と結ばれることを望むなら,俺はそういうゲイになってはいけなかったんだ…」
言葉にしてから,深い後悔の念がブライスを覆った。
「あぁっ…くそっ」
ブライスは脚の上で頭をかきむしった。
「あの頃の俺は,ものすごく優を欲していた,近くに居て欲しかった…。こんなことになるなら,仙台に飛べば良かった…。馬鹿だ,俺は…。
優,本当に済まない…」
ブライスが話し終えるとあとは波の音だけが続いた。このまま優志はこのボートを去っていくのではないかと思い始めた頃,ボートが少し傾いた。
優志がブライスに近づいて来た。ブライスの前に立ったかと思うと,いきなり頭部が上方に引っ張られた。優志がブライスのシャツの両襟を掴んで引っ張ったのだ。
「ブライスの,大馬鹿野郎!
俺という者がありながら,他の男と寝ただって?」
「…っ」
シャツの襟を掴む優志の拳が数度揺すられ,ブライスの上半身が揺らいだ。
「それで俺に嫌われるんじゃないかとビクついて勃たなくなった?ふざけるなっ!許さないからな。
そういうブライは…しばらく俺に顔見せんな!」
「…ぅっ」
「…俺が納得するくらい反省するまで会わないから。
それから,ゲイならみんな恋人以外とヤるっていうんなら,俺はゲイをやめる。一人の男をずっと愛するただの人間でいる。ブライが2回別の男を抱いたからって,俺は諦めないから。ブライを離さないから,忘れるなよ。
ブライが,うだうだおかしな事を二度と言わないで,何の迷いもなく俺のことを好きだって言う覚悟ができたら,そしたら…会ってやる。
一週間後,この時間,ここで,だ」
「…優…」
「ちっさいこと考えてる暇があるんなら,マスでもかいてそれをでっかくするようにせいぜい鍛えろよ」
襟を離して,優志が息をついた。
「じゃぁなっ」
そう言ってハシゴを登り,来たとき同様走って行った。
残されたブライスは,呆然としていた。
寮に戻った優志はスマートフォンを取り出した。
「…あ,お母さん,俺。…ん…ん,お願いがあって…。送って欲しいものがあるんだけど…」
通話を終えたとき,水滴が一粒,優志のスマートフォンの画面にこぼれた。
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