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目を凝らしてその影の動きを見つめていると,耳の中をどくどくどく,と鼓動が押し寄せてくる。影はボートの先に下がっている木ばしごを登り,優志の5メートルほど先で桟橋に立ち上がった。頭を項垂れている。
優志は力を込めて手と腕を板に突っ張り,身体を押し上げようやく影に向き合って立った。
「驚かせるなよ…」
思いっきり声が掠れている。
目が慣れて徐々に暗がりから顔が浮かんでくる。手が力なく両脇に下げられ,所在なげな佇まいだ。
「ブライ…」
再び掠れた声しか出ない。
―ああ,良かった!来てくれた,ブライは俺に会いに来たんだ…
優志は足を進めた,ゆっくりと。一歩一歩進める度に,ブライスの頭が持ち上がっていく。その顔が苦しそうに歪められているのを認めて,優志は堪らず全身でブライスに飛び込んだ。ブライスはすんでのところで両手を広げて優志を受け止めた。優志はブライスの肩に顔を埋め,身体にぎゅっと両手を廻した。
―会いたかったっ!もう離さない…
自信に満ちた表情じゃないけれど,自分からこちらに向かってきたのでもないけれど,でも,いい,ここに来てくれただけでいいんだ,そう優志は思ってブライスの肩に額をこすり着けた。
ブライスも両手を優志の背中に廻して,ゆるりと撫でた。優志の耳の奥の鼓動が小さくなり,代わりに胸に熱いものが込み上げてきた。
大きく息を吸って,優志が顔を離した。そしてブライスの顔をじっと見つめた。
「ゾンビみたいだな…俺はもっと活きのいい男を待ってたんだけど…」
にやりとした優志に,ブライスは少しだけ笑いをこぼした。それから真顔にもどった。
「優…」
「…何…」
「俺は…優を心から愛してる…優だけだ。二度と間違いは起こさない。一生優を愛するって誓うよ」
噛みしめるようにそう言うと,顔を傾けて優の顔を見つめた。
「優は,俺のこと…?」
「ん…」
優志は,ブライスの首に腕を廻し直した。ブライスの伏せ気味の瞳を見つめる。
「俺もブライだけを愛してる,ブライしかいないから。ブライしか考えられないから…。ブライ,一週間とても淋しかった…」
その言葉に,ブライスがぐっと優志の身体を引き寄せた。暗闇に煌めく瞳を互いに見つめ合い口づけを交わした。押しつけ合うと唇が自然と開く。さらに深く,どれだけしても足りないとでも言うかのように,長い間口づけ合った。
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