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優志とブライスは平穏かつ充実した日々を迎えた。優志の修士課程開始の準備とブライスの博士課程に向けた研究。ジョギング,そしてウィンドサーフィン。
学生の鑑じゃないか,と優志は思ってベッドに並んで座って科学雑誌を読んでいるブライスをのぞき見た。週の半ばの夜だった。
「ん?…何か問題あるか,俺の論文…」
優志はあわててブライスが修士課程終了に提出した論文を,ばさばさと握り直した。
「あ,いや,ちょっと難しいかも,この数字の羅列は…」
「そうだな,優志が扱うものより,数字の裏付けを取る必要が多いからな…」
初めて会った頃,ロケットのエンジン開発を考えていた優志は,今では小惑星探査機に興味を移し,その研究を続けていこうと考えている。
対してブライスは再生可能ロケットをトータルに研究している。ロケットの垂直着陸の成功は再生ロケットの需要増加を意味した。今なら斬新な再生ロケットの研究も受け入れられる雰囲気があって,ロケットの素材と設計改良,燃料とエンジン開発など,ブライスは様々なアプローチを試みている。
ふたりは互いの研究にも突っ込んで話し合いをし,理解し合っていた。
ふと,全く違う話をブライスが切り出した。
「母親に付き合ってる奴がいるのは知っていると思うが…いずれそいつとの新生活を始めるような雰囲気だ…」
「アセナが?嘘だろ?」
優志の頭の中に綺麗な白髪姿が浮かんで来た。
「先週,父が母に会うためにシアトルに来たんだ,ロスでの学会の帰りに。父が再婚したことも直接伝えたそうだ。
母親としてはいろいろ吹っ切れたみたいなんだ。それで自分も第二の人生を考え始めたんだろう。俺に遠回しにそう言ってきたよ。
彼女が,エジプト人会の新参メンバーに入れ込んでるのは明らかだから,俺も心の準備はできてる」
「アセナが相手の家に移るの?」
「そういう感じだ。すぐにって感じでもないけどな。相手の男性はシアトル大学に勤めていて,ダウンタウンのアパートメントに部屋を所有している」
「なるほど…」
「…で,優はいつ,俺の家に戻ってくるんだ?それともふたりでアパートを探すか?」
ブライスが肩に手を廻して,甘く囁きながら訊いてくる。
居住先という話題に,思わず優志は身構えた。
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