湖の約束 3

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「まぁ,彼の性癖は知ってるし,ちょっとした自己犠牲?それに自分の趣味も研究も兼ねられるから…,誰にとってもいいアイディアなんじゃないかと思っているよ」  固かったブライスの表情が解けた。 「すごいなお前。…自分の行動に酔っているだけだとしても,な。陰ながら応援するよ」 「ああ,俺に墜ちたら報告に来るよ,ユウシがいないところでな」 ―全く,世の中には色んな人間がいるものだ。俺の理解の範疇を超えている…  ブライスは意気揚々と引き上げるマットの後ろ姿を見送った。 ―あ,届いてる…  その日寮に戻った優志は,管理人から母親から送られた小包を受け取った。大きなマチ付きの茶封筒に入っているがさほど重くない。両手に乗せて封筒を見つめると,少し頬を赤らめた。  週末を目前にして,ブライスは研究の区切りのいい所で作業をやめ,優志をウィンドサーフィンに誘った。  夏の盛りを越え,山々の緑が心なしか落ち着いているように見える。たっぷりと降り注ぎながらもぎらぎらしたところがない太陽の陽差し。優志には,季節が熟成してきていると感じられた。  優志の前の湖上を進むブライスは優雅さそのものを体現している。少し陽に焼けた肌,陽差しのせいで色が抜け,サンドベージュより銀髪に近くなった髪の毛。均整の取れた体つき。  力強くそして美しく成熟した大人の男だ。誰もが魅了される存在だ。 ―それで十分だ,ブライにはフェロモンなんか必要ない…  同時に,自分だけには性的な魅力を露わにして欲しい,とも思う。だから…。  金曜の夜,アセナが付き合って男性のところに泊まるらしい,そうブライスは前もって教えてくれた。だから優志はバッグに収めてきた。  夕方ブライス家に行き,ふたりきりで過ごす。夜になって優志がシャワーを使い終えると,ブライスが交代で浴室に行った。優志はブライスの部屋で準備をする。バッグを開けて取り出したそれに身を包む。  ブライスのために着たのに,ブライスにこの姿を見せるのが,恥ずかしい。部屋の灯りを落とそうと間接照明のつまみを最小になるまで捻った。部屋の中がかなり暗くなった。 ―これならいいかも…  そう思った時,ドアが開かれた。 「何だ,随分暗いな…,っ…優…」  ブライスに目に入ってきたのは,紺色の浴衣を着て恥ずかしそうに佇む優志の姿だった。
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