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「母に送ってもらって…」
うつむき加減に話す優志のうなじが,夜の湖の色をした浴衣の襟からすっと伸びて,照明の灯りを受けてぼぉっと浮かんで見える。
ブライスはその温かい色合いに,くらくらと目眩を感じた。途端に喉がぎゅっとしまるのを感じた。
「優…」
やっとのことで声を出したものの,あとに続く言葉が出ない。優志は自分に見とれている男を見ると,すっと近づいた。そしてその男の僅かに開かれた口元を見つめる。
「ブライ,俺が浴衣着るの…気に入ってただろう?」
「ああ,…とっても気に入ってる。優…俺のために,それを…?」
乾いた唇を舌先で舐めて潤す。
「ん…。ブライが日本に来たとき,俺が浴衣を着ると,…とても…喜んでたみたいだから…」
話しているうちに優志は目を伏せたので,睫毛が目元に長い影を落とし,うっすらと上気させたらしい頬の様子と相まって,ものすごく色気を漂わせた。
ブライスは堪らなくなり優志を抱き寄せて,顎に手をかけて口づけをした。一度唇を合わせると,止めどなかった。唇を吸い,奥まで舌を差し込み優志の舌と絡ませ,強く吸う。合わせた唇の角度を変えてまた吸う。
優志が自分を喜ばせようとして浴衣を着ていること…。その思いが愛おしくて,優志が愛おしくて…。ブライスは優志の両頬に手を添えて,ふっくらと膨らんだ唇から自分の唇をやっとのことで引き離した。それでも鼻先はくっついたままで,唇ももう少しで触れる,という距離だ。
「愛してる,優志…。どうにかなってしまいそうだ…」
長い口づけのあとに唇の間近に熱さを感じて,優志は息も絶え絶えとなった。
「お…俺もブライを愛してる…」
その言葉に満足したブライスは,唇を優志のうなじに這わせ,きつく吸い,優志を再び喘がせた。ブライスの唇はうなじを辿り,ついには浴衣の襟の中まで鼻先を突っ込み,大きく息を吸った。優志の匂いを奪い尽くしたかった。
浴衣の襟を緩めて優志の鎖骨を甘噛みしながら,ブライスは2年半前に初めて訪れた日本の,ひなびてはいたが心温まる温泉宿の部屋を思い出していた。その畳の上で,浴衣を乱しあられもない姿を晒して,自分に全てを差し出した優志を思い出していた。
―異国情緒が,浴衣の乱れた優志が,俺を最高に興奮させた…
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