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「そうか,結婚式に出るのか?」
「いや…。父親からはまだ学費の援助をしてもらっていて繋がりはあるんだけれど…もう解放してあげたいんだ。俺に気を遣わず好きな人生を歩めよって。もう歳だしね」
「…アセナは知ってるの?そのこと…」
「ああ,俺から伝えてくれって頼まれて,伝えたよ」
「そう,…ふたりで会って話し合うことは…できなかったんだね…」
優志の声が小さくなった。
「…時間が…経ちすぎてたからな」
沈黙が流れた。アセナの足音が聞こえてきた。
「ジェーンからブルーベリーのジャムをいただいていたこと,思い出したの。アイスクリームにかけてみたから食べて」
テーブルにアイスクリームの入った容器を3つ置いてアセナがイスに座ると,その容器を凝視している優志に気づいた。アセナはさらに勧めたらよいのか躊躇した。
―ブルーベリーの花言葉はね,『実りある人生』『知性』『信頼』『思いやり』よ!
そう教えてくれたのは,ジェーンの二女のエリンだ。初めて優志とブライスがキスをした時,「結婚式みたい」にネックレスを贈りあったときも,ブルーベリーを食べた。
優志の表情を見ながら,ブライスはそのことを遙か昔の事のように思い出していた。
「…あの俺,話しておきたいことがあるんだ」
そう言った優志の顔が少し青ざめていた。
「俺,来週から大学の寮に入ります。明日,学生課に行って入寮の手続きをしてきます。勝手なことしてすみません」
アセナに頭を向けて視線を落としている。ブライスは驚いて優志を見た。
「そんな,ユウシ,だってあなた夏の間はここにいるって…ねぇ,ブライス」
「…そんな大事なことを,なぜ前もって俺に言わないんだ」
「ごめんなさい。俺,早く大学に慣れて院の研究に集中したいと思っていたんだ。そうしたら,早めに大学に来る学生用の寮があるのを見つけて…。相談もせずに申し込んでしまったんだ」
「ここにいたら,勉強に集中できない,ってことか」
「い,いや,そういうことではなくて…」
「ブライス,ユウシが困るような言い方はしないで」
アセナは,滅多にないことだがブライスが感情的になっているのがわかった。
「ユウシ,計画ではあなた夏の間にブライスと学生用のアパートを探して,秋からそこにふたりで住む,ということだったわよね」
「…俺,考えが変わって…」
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