湖の約束 3

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ブライスが手を伸ばして唇の端に触れる。ん?と動きを止めた優志の唇の横から黄身をぬぐい取り,自分の口に持っていった。 「は…恥ずかしい,だろ」 「そうだよな…恥ずかしいよな」  ブライスがくすくす笑う。優志はエジプト風のアイスミルクティーをごくりと飲んだ。 「しかし,すごい洗濯物だよな…。優志と生活したら,しょっちゅうこんなに洗濯することになるのかな…」  ブライスが庭の端に目を向けて嬉しそうに呟く。 「そ,それは,ブライスが俺をいろいろ動かすからだろ…出てる最中に」  言ってから,しまった,と優志が口をつぐんだ。 「だって,気持ちいいって,もっとって,優志がねだったからだろ…?」 「もうやめよう…,昼にする話題じゃないっ」  優志が真っ赤になる。スープの色と遜色ない。  前の晩,優志はいいところを責め立てられ,ブライスが望んだ「シャンパン」を放出するに至った。そのとき優志は「気持ちいいからもっと揺すって」と口走ったのだ。ブライスが優志の望みを叶えた結果が今朝の洗濯の山だ。  ブライスはテーブルの上で優志の手を握った。 「冗談はこのくらいにして…。優,いつ引っ越してくるんだ?」  その問いに,ブライスを見つめていた優志の視線がテーブルに落ちて,沈黙が訪れた。 ―おい,嘘だろ…  ブライスは優志から視線を外して洗濯物を見やった。青い空の下ではためく,寝具とふたりの衣類,そして浴衣。自分の家で干される恋人の夜着。 ―お願いだ,俺の幸せ…  優志がすでに視線を戻してブライスを見つめている。その目に強い意志を感じる。 ―あ,だめだ… 「ブライ,そのことで…話がある」 「……」 「ブライ,聞いて欲しいんだけど…話してもいい?」  溜息を一つ吐き出してブライスは観念した。 「…いいよ」 「俺,寮暮らしを続けたい。1年でいいから」  ブライアンは思わず目を閉じた。 「…寮で,生活とか研究とか,自分のことは自分でしてみたい。ブライといると精神的にも物理的にもいろいろ頼ってしまうだろ,俺」 「頼り合うのがパートナーじゃないのか?」 「俺の場合,頼り過ぎるのが問題だ。俺,アメリカでも一人の人間として自立して,ずっとやっていける自信を付けたいんだ」 「自立するために,俺とは暮らせないって言う訳か…」 「そういう意味じゃない」 「……」
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