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ブライスが手を伸ばして唇の端に触れる。ん?と動きを止めた優志の唇の横から黄身をぬぐい取り,自分の口に持っていった。
「は…恥ずかしい,だろ」
「そうだよな…恥ずかしいよな」
ブライスがくすくす笑う。優志はエジプト風のアイスミルクティーをごくりと飲んだ。
「しかし,すごい洗濯物だよな…。優志と生活したら,しょっちゅうこんなに洗濯することになるのかな…」
ブライスが庭の端に目を向けて嬉しそうに呟く。
「そ,それは,ブライスが俺をいろいろ動かすからだろ…出てる最中に」
言ってから,しまった,と優志が口をつぐんだ。
「だって,気持ちいいって,もっとって,優志がねだったからだろ…?」
「もうやめよう…,昼にする話題じゃないっ」
優志が真っ赤になる。スープの色と遜色ない。
前の晩,優志はいいところを責め立てられ,ブライスが望んだ「シャンパン」を放出するに至った。そのとき優志は「気持ちいいからもっと揺すって」と口走ったのだ。ブライスが優志の望みを叶えた結果が今朝の洗濯の山だ。
ブライスはテーブルの上で優志の手を握った。
「冗談はこのくらいにして…。優,いつ引っ越してくるんだ?」
その問いに,ブライスを見つめていた優志の視線がテーブルに落ちて,沈黙が訪れた。
―おい,嘘だろ…
ブライスは優志から視線を外して洗濯物を見やった。青い空の下ではためく,寝具とふたりの衣類,そして浴衣。自分の家で干される恋人の夜着。
―お願いだ,俺の幸せ…
優志がすでに視線を戻してブライスを見つめている。その目に強い意志を感じる。
―あ,だめだ…
「ブライ,そのことで…話がある」
「……」
「ブライ,聞いて欲しいんだけど…話してもいい?」
溜息を一つ吐き出してブライスは観念した。
「…いいよ」
「俺,寮暮らしを続けたい。1年でいいから」
ブライアンは思わず目を閉じた。
「…寮で,生活とか研究とか,自分のことは自分でしてみたい。ブライといると精神的にも物理的にもいろいろ頼ってしまうだろ,俺」
「頼り合うのがパートナーじゃないのか?」
「俺の場合,頼り過ぎるのが問題だ。俺,アメリカでも一人の人間として自立して,ずっとやっていける自信を付けたいんだ」
「自立するために,俺とは暮らせないって言う訳か…」
「そういう意味じゃない」
「……」
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