湖の約束 3

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「俺たちの年だと,離れて暮らしている学生の方が多いだろ」 「でも,俺たちは3年待ったし,やっと一緒に暮らせるようになったのに…」 「ブライ…」 「優,お前は寮がどんなところかわからないんだ。新学期が始まって学生が戻ってみろ,いろんな奴が来る。中には…手当たり次第ベッドに誘う奴もいる。俺はプリンストンでは学生アパートだったけれど寮のことも少しはわかる。寮だと週末は,もう…無法地帯だ,お前みたいなプリンセスは,男にも女にも喰われて」 「週末はここに来るから…」 「…週末は,ここに…?」 「ダメかな」 「い…い…いいんじゃないか,それは」 「よかった!」  不安そうな顔が満面の笑みにとって代わられ,お,ヨーグルト食べるか,のひと言で話題を変えられてしまった。  ちょっと待て,さっきの話は…ブライスの喉まで出かかった言葉は, 「あ,優…そこ,ブルーベリーが付いてる…」  別の言葉に先を越されて,結局飲み込まれてしまった。そして優志の幸せそうな顔を見ていると,ブライスは話を蒸し返すことができなかった。  何か思うところがあるのかその日は寝るまで,優志が自分からブライスにくっついてきては,四六時中キスを繰り返した。 ―魂胆は見え見えだけど,いちゃいちゃしてくる優は…とんでもなく可愛い…  夜,ベッドで優志を後ろから抱きしめて,優志の寝息を聞きながらブライスもまた幸せな気分で目を閉じた。  夜具から,シアトルの夏の終わりを思わせる乾いた草原の香りがした。 「ブライス,来週新学期が始まるってのに何だか浮かない顔だな」 「ん…?ああ…何だか世の中思い通りに行かなくてな…」 「何だっ?才能で周囲をばっさり切り捨てながら突き進んでいる我らがブライス・ジョーンズが,すごい弱気になってる…」 「研究は順調だけど,人間関係が…な」 「あ,ユウシね…。彼,最近すごい調子よさそうだけど…。この間も寮の奴とつるんで…あ,いや…んんと…」 「マット,俺にそれを聞かせるために来たんだろ,小芝居はやめろ」 「はは,それがさ」  マットは研究室の椅子に腰を下ろして,コンピュータの前のブライスに上半身を傾けた。 9月になってマットはコットンベストを着るようになった。相変わらずスティックを振りかざす馬上の人が得意げにくっついている。
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