151人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
ブライスは大学の運動施設の近くにある桟橋にきていた。夕方,湖から吹いてくる風が少し冷たい。もう,秋が近づいて来ているのだ。湖の向こう岸の緑も少しずつくすんで紅葉する気配が感じられる。
「ブライ!ごめん,待たせた」
優志が自転車を留めて桟橋を進んでくる。屈託のない笑顔を浮かべている。愛おしい男だ。ブライスは自分の心が一気に明るくなるのを感じた。
「優,今日はどうだった?」
自分の隣に座る優志に軽くキスをし,肩を抱いて尋ねる。
「シアトル・マイナーズの方は10月に4回のセミナーを受けて,それからスイッチボートのアシスタントにまわしてくれるらしい。実際に独りでボランティアできるのは…来年の春かな。アジア人の相談者がたまにあるらしいから。それまでは事務処理の手伝いのほうが多いかも。事案の整理とか…」
「なるほど…。それ,できれば俺が行く水曜日にしてくれるといいな。一緒に居られる」
「ああ,あとで伝えてみる」
「シアトル・マイナーズの活動はいいんだけど…そこには明らかにゲイとかバイが多いわけだから…」
「…?」
「優を誘惑しようとする奴らがいる可能性がある」
「そう…」
「…今,俺が余計な心配してる…って思っただろ」
「そんなこと…」
「いろんなことを想定しておかないと,嫌な思いをする事もあり得るから」
「わかった。教えてくれてありがとう」
「え…うん」
「ブライ,これから湖に出たいな」
ふたりはブライスの車から取り出した毛布を手に,さざ波の立つ湖にボートを漕ぎ出した。
「そっちに行ってもいいか?」
湖の真ん中で,優志は毛布を持ってブライスの方に進んだ。ブライスの脚の間に腰を下ろすと,身体を捩ってブライスの顔を見つめる。
「今日一日,ブライの目が頭から離れなかったよ」
優志はブライスの両頬を自分の手で挟んで,眼を見つめた。ブライスの瞳を交互に見つめている。ブライスはそっと優志の身体に両腕を廻して抱きしめた。
「俺の今日の目はどうだ?」
「とても…綺麗だ,夕陽を反映して。…幸せな気分になる」
優志は,ブライスの目の色を自分の瞼の裏側に焼き付けるかのように目を瞑った。
徐々にふたりの距離を縮めて,ブライスが優志の唇に自分の唇をゆっくりと重ねた。
最初のコメントを投稿しよう!