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肩を掴まれたまま,ブライスは優志を見つめた。穏やかな表情だ。
「優,反対する訳じゃないから心配するな」
ほーっ,と詰めていた息を吐いて優志はブライスの肩から手を引いた。
「反対されるかと思ってた…」
「もう,決めてきたんだろ?」
「う,ん…そう…」
「優は自立心が強いから,俺の腕の中でじっとしていることはないんだって,嫌でも理解するようになったよ」
優志が居心地悪そうに視線をさまよわせる。
「でもな,はるばる日本からここに来たのは俺がいるからだって,そう思ってる」
「そうだよ」
優志が力強く言葉を挟む。
「だから,信頼している。でも…そうだなぁ,気を付けて欲しいことがふたつ。まずは研究に支障がないようということだ。学業優先だ。それから…スーパーは色んな人間が出入りする所だから,隙を作らないこと。変な奴につきまとわれないように…。あ,それから…」
ブライスは優志の両手を取って自分の手で握り込んだ。
「…俺との時間を確保すること。コミュニケーションをとってこうして触れ合って…愛し合うことを大切にすることだ」
優志の手を自分の口元にもっていき口づけをした。
「ん,わかった。ありがとう,ブライ」
「俺は優の自立しているところが好きなんだ。うまくいくよう祈ってるよ」
「本当にありがとう」
「さ,戻ろうか」
「え,あの,もう?」
優志がもじもじして少し身体を接近させた。キスした時から中心部には変化があった。
「優,俺も同じだ。優はどうしたい?」
「…寮に来る?」
「いいのか?後で何か言われるんじゃないか」
「声…押さえるから」
ブライスがジーザス,と呟いて,それからオリンピック選手並みの勢いでボートを漕いだ。
その晩,寮の優志の部屋からは時折くぐもった声とベッドが軋む音が長く続いた。
ほとんどの寮生はブライスと優志の関係を知っていて理解を示し,温かく見守るようになっていた。…もしくは諦めていた。
というのも,研究で並外れて優秀,今後の活躍が期待されているブライスが,長らく待った恋人とようやく一緒に過ごせるようになったらしいと,誰もが知るところとなったからだ。文句を言うものはいなかった。
優志と同じ階に住む学生は「騒音」の対処法を確立していた。
違う階の寮生の部屋に避難するかヘッドフォンの大音響で凌ぐのだった。
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