湖の約束 3

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その週の土曜日,優志はブライスの家でカレー作りに奮闘していた。アセナの恋人とその娘を夕食に招待していた。両家の顔見せで,優志のことも紹介する大切な日だった。  皆エジプト料理は食べ慣れているだろうと,優志が日本料理を作ることになった。  それで,カレーだ。何しろ優志の十八番である。  さすがにカレーのルーを混ぜたらOKではダメだろうと思い、ネットで市販ルーでできる本格的なカレーを検索して作っている。  ブライスと優志は手際よく料理しつつ,見つめ合ったりキスし合ったり味見をさせ合ったりと忙しい。  アセナは様子を見ていただけだったが,ふたりが何度目かのキスをしているときにとうとう口を出した。 「あなたたち,新婚のカップルみたいにお熱くていいわねぇ。でも,鍋の中身まで焦げないように気を付けてね」  優志は変な汗が吹き出した。  客人が到着して自己紹介が和やかに済んだ。父娘はすでにアセナから伝えられて,ブライスがゲイであることと優志が彼の恋人であることを知っていた。  米国生活が長い父と米国生まれの娘は,リベラルな土地柄もあってふたりの関係を尊重しているのが感じられる。  食事は感嘆と賞賛で賑わった。大きめのビーフにピューレ状になった何種類もの野菜,そして複雑で奥深い味わいのルー。皆,その味に舌鼓を打ち優志自身その美味しさに驚いた。 「自分の母親に食べさせたいくらいです」  その言葉に皆ほろりとした。  牛タンの塩焼きと豆腐がトッピングされたサラダは,わさびと大根おろしと醤油がベースとなったドレッシングで日本らしらを添えて,大量にあったのに好評のうちに食べ尽くされた。  皆が皆幸せな気持ちに包まれて夕食は幕を閉じた。 「君たちとこれから長く付き合っていけるのがとても嬉しいよ。心も胃袋もこれ以上ないほど満たされたからね」  アセナの相手の男性が満面の笑顔で言うと, 「私,ワシントン大学に進学しようかな。こんなに素敵な…その,知り合いがいるなら…」  17歳という難しい年頃の娘も最大の賛辞を送った。「知り合い」を「身内」と言えたらいいのに,と思いながら…。  アセナはアルコールを飲んだ男性に代わって車を運転していくことにした。向こうの家で映画でも見てくるから,2時間したらもどるわね,と気を利かせる。  ブライスと優志は有難く2時間を有効利用した。
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