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「ユウシ,あなたもかなりタフだわ。…ところで,あなたの日本人の友だち…リョウって言ったかしら?彼はどうしたの?」
「ええと,今は仙台の大学院で学んでいます。英語の条件がクリアしたら1,2年くらいアメリカに留学したいと言っています」
優志は遼のことを思って,ちょっと懐かしくなった。
「ユウ,彼のことが懐かしい?」
「ん,あとで連絡とってみる」
いろいろなことがありすぎて,遼にゆっくりとシアトルでの生活を伝えていなかった。特に大学のことについて遼の役に立つようなことを伝えなくては,と思い直した。
ふたりはハーレー家を後にし,ローレルハーストを歩いてブライスの家に向かった。
途中坂道からワシントン湖が見える。満々と水を湛え,穏やかな秋の陽差しを映している。
「ああ,この道のり,俺たちが初めて一緒に歩いたコースを逆戻りしているんだな」
「本当だ。初めてふたりで歩いた道だ。あれって俺がシアトルに着いてほんの2日目だったんだ」
「早く声をかけて良かった。じゃなきゃ他の奴に取られていたかもしれない」
ブライスはラッキーだったよ,と笑った。
「いや,俺,誰でもいいってわけじゃないし…」
「そうか,そうだよな。俺だからだよな。俺も,優だからだ…It had to be you だ」
ブライスは立ち止まって優志を見つめた。優志は気がついてブライスの目を見た。綺麗なグレーの虹彩,青や緑,黒っぽい筋が瞳孔から放射線状に走っていて,万華鏡のようだ。
「綺麗な瞳だな…」
「そりゃ綺麗さ,優のことしか映さないからね」
クスッと笑って,そっと優志に口づけをした。
それからふたりは湖に視線を向けた。
「俺,ちゃんと約束を守ってここに戻ってきたんだな。いろいろあったけど,『はやぶさ』みたいにきちんと帰還できた」
「俺が管制塔から指示したからじゃない?かなりふらついてたじゃないか?」
「んー,そうかもね。これからもお願いします,地球管制塔ジョーンズ管制官!」
「OK。その代わり…定期的に愛情補給を頼むよ」
「ふたりきりなら,いつだってOKだけど」
湖を見つめながら互いに肩と腰に手を廻して寄り添った。もう何も不安が無かった。
シアトルでふたりが出逢うことができた奇跡。
この湖が見える場所でこれからずっとふたりで生きていくのだという未来。
その二つがブライスと優志の心を温かく満たしていった。
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