1. 懐かしい顔

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北が〇|〇|、南が高島屋の、大阪の特に有名な難波の交差点。地下鉄から出て来て、青色信号が点滅し始めたので、慌てて傘を開いて駆けようとしたが、交差点に足を踏み入れる一歩手前で赤色に変わってしまった。 やれやれと軽く溜め息を吐いた時、向こう側の〇|〇|の前に並びだした人混みの中に、懐かしい顔を見つけて、「あっ!」と発して気持ちが一気に晴れた。 バレンタインデーの前日の夕方という事で、歩行者の多さも去ることながら、通行する車も連なり絶えず、走行車の間から、健(けん)を改めて見つけ出そうにも、なかなか困難な技である。何年振りなのに、会いたい! 人間の心理なのか、焦れば焦るほど、信号が変わるまでの時間がいつも以上に長く感じられて、余計に焦ってしまう。 走行する車の動きが止まり始め、青色が黄色に変わっていく。俺はそれまでに 、何とか人混みの中を掻い潜って、横断歩道の手前の最前列に辿り着いた。 向かいの人混みの中に、健の姿はなかった。 「あ……。」 「おい、拓(たく)! 」 昔出会った時からその慌て方は変わらんなあ、と高校生の時よりちょいワルルックになっている健が軽く笑いながら言った。 「! えっ、後ろ!? 」 「信号長引きそうやったから、地下から回ってきたねん。」 健は背が低い方だが、脚が長いので、昔から歩いたり走ったりするのは早い方だ。
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