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「たっくんっ!! 目、離さないでっ! カエルが跳びだしたら、どうするのっ!! 早くしなさいっ!!」
私はあらん限りの声で、叫んだ。
「だってぇ~。 見つかんないんだもーん・・ぐずっ・・うぅ、うわぁーん!」
拓未が机の下で、泣きだした。
「た、たっくん、泣かないで・・・わかったから・・それより・・蓋・・早く・・お願い。もう、何でもいいから、早く、その上に置いて! ね!?」
その時、カエルがモゾッと動いた。
「ぎゃあぁぁあ! たくみっ!! 早くしなさい!! 何でもいいから! 早くかぶせてっ!!」
「うん。ぐずっ。 じゃあ、これにする。 カエルさん、いい子にしててね」
そう言って拓未は、学校へ被っていった帽子を虫かごにふわりと被せた。
「あんなの・・あんなのじゃ・・」
絶対に不安! そう思ったけど、帽子のおかげで、虫かごの中身が見えなくなった。
私は少しだけ息を吐いて、我を取り戻した。
「たっくん、おやつあるからね。お手て、よーく、よーくよーく、石鹸で洗ってね!」
子供部屋の扉をきっちり締めたところで、やっと笑顔を見せることが出来た。
夕飯の時
「たっくん、お願いだから、明日カエルさん、学校に戻してきて。
ママ調べたんだけどね、カエルさんは、生きてる虫しか食べないんだって。ママ、カエルさんにご飯あげられないからね・・・」
「カエルさんで実験したかったのに・・」
拓未は唇を尖らせた。
「実験ってどんな?」
「いろいろ・・・」
「いろいろじゃ、わからないでしょ? カエルさんも生きてるのよ? ご飯食べなきゃ、死んじゃうの。 おなかすいたーって泣いちゃうよ? お外にかえそうね?」
拓未は返事を渋っていたけど「たくみ? わかった?」怖い顔で凄んだら、瞳を潤ませながら、小さく頷いた。
それから、拓未は一切カエルの話をしなかった。
私も特に気も留めなかった。
学校へは毎日楽しそうに行っていたし、普段の生活に変わったところはなかったと思う。
ところが・・・・
日曜日。拓未に留守番をさせて、私はスーパーへ出かけた。
帰ってきたのは、夕方遅くだった。
「ただいま~」
玄関から声をかけても、何の返事も聞こえない。
「たっくーん? ただいまー?」
廊下を進んでリビングまで来ると、拓未の泣き声が聞こえた。
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