第一章 捨てられた人間

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 目の前の肩のラインで髪の毛を切りそろえた、スーツ姿の女性の言葉に、わたしは息をのんだ。いや、正確にはわたしだけではない。周りの人たちすべて同じ心境だった気がする。  皆、唖然とした表情で女性を凝視していたからだ。  なぜ、そんな目をしているのか。その理由はここにいる人たちならみんなわかる。  なぜなら、彼女はこう言ったのだ。  あなたたちは合法的に家族に捨てられたのだ、と。  彼女、井出元初美は短く咳ばらいをした。 「あなたたちも思い当たることはあるんじゃないの? 非があろうとも、なかろうともね」 「何を言っているんだ。勝手なことを言わないで家に帰してくれ。また明日も仕事があるんだ」  そう叫んだのは五十代と思しきスーツを着た男性だ。  威圧感のある言い方にも、女性は全く動じた様子がない。 「だから言ったでしょう。あなたたちは家族に捨てられた。あなたの妻と息子さんが、あなたを死んだことにしてくれと言ってきたのよ。あなたを返しても、すでにあなたはこの日本では死んだことになっているのよ」
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