1.帰ってきた二人

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「あっ…部長だ………」 道場では新入生も交じって練習が行われていた。 その中の誰かが、開いたドアから現れた人を見て呟いた。 その声にそこにいた全員の動きがストップし、凝視するように夾夜を見る。 「…穴があくほど見つめてくるのはやめてくれ。」 いっせいに自分の方に視線を向けた部員たちに夾夜は苦笑しながら軽く手を挙げて応えた。 「…夾夜か。」 夾夜はやはりどこにいても、目立つ存在だった。 床にすれる音も無く歩く夾夜の目の先には顧問が立っていて、その隣には遊也がいた。 「久方ぶりです。」 夾夜は顧問の前まで来ると微笑を向けて、姿勢を正してお辞儀をした。 「そうだな…。夾夜、もう休養は良いのか?」 「はい。ご心配、ご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした。」 夾夜ははっきりと返事をすると、丁寧に謝る。 「ソレは部員たちに向けてやれ。どうせ今日は顔出しだけなのだろう?」 顧問は壁にかかって時計をチラリと見ると、夾夜の考える事はお見通しだというような顔で苦笑したまま夾夜に言った。 「そうですね…。」 顧問の言葉が尤もだったのか夾夜は苦笑して言い、 「全員集合!仮入部しに来てくれてる新入生の諸君も集ってくれ。」 と、道場内に声を轟かせた。 「ハイ!!」 夾夜の一声で部員は夾夜の立っている場所に整列する。 弓道部は決して部員は少なくない。 が、それでも一声だけで集って整列まで出来るのはやはり部長が夾夜だからだ。 弓道部では部長の命は何が何でも…絶対的な権限を持つのだ。逆らう事は許されない。 「部長でありながら今まで長く休んでいて申し訳ない。心配もかなりさせてしまったようだな。すまなかった、ここに非礼を詫びよう。それと、お礼を。皆、心配してくれて有難う。 明月夾夜完全復活だ。」 夾夜は一瞬にして集ってきた部員に対して深々と頭を下げた。 「部長、おめでとうございます。」 「夾夜…お帰り。」 そんな夾夜に対して部員たちは歓喜の声を上げた。 「有難う、皆。…じゃぁ改めて自己紹介といくからちょっと静かにしてくれ。」 大声をはりあげているわけでもないのだが、透き通った夾夜の声は道場によく響いた。 そのおかげで一度盛り上がった声が全く音が無い状態に戻った。
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