1.帰ってきた二人

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ルルル…ツゥルルル… 夾夜が意識を完全に手放すか否か。 そんな時、内線が鳴った。 ツゥルルルル……。 「…?」 (誰か来たのか?) まだしっかり回転していない頭でボンヤリ考えながら、 夾夜は子機を手にする。 「誠に申し訳ありません。ですが夾夜お坊ちゃま、お客様が…。」 使用人は本当に申し訳無さそうに言った。 夾夜の声で寝ていたコトが分かったからだろう。 「誰?」 「井緒様でゴザイマス。」 「部屋に通して…」 夾夜は手短に言うと、電話を切った。 暫くするとカチッと音を立ててドアが開いた。 「夾夜、いきなりすまなかったな。寝ていたのに…って制服のままで寝ていたのか?」 部屋に入るなり、苦笑いを浮べて謝った悟之は夾夜の姿に眉をよせた。 「………。 寝るつもりはなかったんだケドな。寝転ろんだら急に睡魔に襲われたんだ。」 いきなりの指摘に夾夜は苦笑して、 「まっ、誰かのおかげですっかり目が覚めたけどな」 と付け加えた。 「そうか。それはすまなかった。が、起きるには良い時間ではないか?」 「まぁ、言ってみればそうだな。」 悟之の最もな言葉に夾夜は再び苦笑した。 「そうだ。遅れたけど、久しぶりだな。」 別に彼とて嫌味を言うためにわざわざ学校帰り直でやって来たわけではない。 そのことが分かってか、芝居を打ちつつもクスリと笑って夾夜は言った。 「ああ、久しぶりだ。」 「今日はわざわざどうしたんだ?って…、まぁ見当はつくけどな。」 ベッドの上からソファへと移動すると夾夜は話を促した。 「見当はついている、か。 ……さすが夾夜だな。」 悟之は負けました、とでも言うように苦笑して言った。 「コレ。だろう?」 そして部屋に置いてあるバイオリンを手に取った。 「不安なのは分かるんだ。しかし、今の状況じゃ何も言えない。」 夾夜はそっとバイオリンを構えた。 「ただ悟之。 俺は俺、明月 夾夜だ。 それは世界がひっくり返ろうとも変わらない。」
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