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夾夜はキッパリ言い切って、バイオリンに口を開かせた。
バイオリンは従いすんなりと音を出し始める。
「珍しいな、人前で奏でるとは!」
夾夜の言った尤もな言葉に微笑すると、悟之は微笑ましそうに言った。
「不服か?」
バイオリンの妙に高い音は殺風景な広い部屋に広がった。
「いや、光栄だ。夾夜の音はめったに聞けないからな。」
悟之は再びクスリと微笑んだ。
「アリア…か。」
夾夜が弾いているのは、
G線上のアリア
「バッハだったな。」
引き続ける夾夜を見つつ悟之はボソッと呟いた。
(さすがに夾夜にはかなわない、な。)
楽譜もなしに目を閉じたままスラスラ弾く夾夜に悟之は苦笑した。
それは悟之自信バイオリンを弾くからだ。
「どうかしたか?」
「イヤ、そろそろ帰ろうかと思ってな。」
悟之は夾夜の問いをサラッと流しさっと立ち上がった。
夾夜はタイミングを見計らったようにアリアを弾き終えた。
「ああ、見送りは構わない。」
悟之はバイオリンを弾いていたためい立っていた夾夜がソファに座ったのを見て言った。
「そうか。」
まぁ、夾夜の方も見送りなどサラサラする気はないらしいが。
「悟之。」
ドアに向かって歩き始めている悟之を夾夜は声だけで止めた。
「?」
「もし俺とお前が約束を違える事になっても、俺は諦めたりはしない。
絶対という名の、永遠だからな。」
夾夜は彼をを見ず、背を向けたまま言った。
悟之もまた、ああ…とだけ言って振り返らずに部屋を去って行った。
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