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「夾夜坊ちゃま…。
大変失礼ですが、今なんとおっしゃいました?」
明月家第二邸宅。
そこで住み込みで働く使用人が、主の言葉に自分の耳を疑ったかのように目を丸くして問い返した。
「耳が遠くなったのか?俺は、学校を休むと言ったのだ。」
夾夜は使用人の反応が自分の思った通りだったらしく、可笑しそうにクスクス笑って再び同じ事を言った。
今日は、4月の第4土曜日。
立帝学園は土曜日は第1・第3土曜日が休みなので授業はある。
「あの…休まれてどうされるおつもりで?」
夾夜の様子を見れば体調が悪くないことは一目瞭然だ。
それなのに休むという夾夜に使用人は恐る恐る尋ねた。
「あぁ、光夜と事を足らせようと思ってね。」
光夜の通う海星学園は週休2休性。
だから土曜日も休みなわけで…。
「あの…夾夜お坊ちゃま、それでは答えになっておりません…。」
使用人は困惑の色を顔に浮べて、それでも主に強く言えない立場上物腰柔らかに言った。
「そこまでお前に教える義務はない。何をしようと一切介入してはいけないことぐらい分かっているハズだ。」
しかし夾夜は冷たい声でピシャリと使用人の言葉を途絶えさせた。
「……まぁまぁ、夾夜お坊ちゃま。少しは落ち着てください。」
一人の手に負えなくなった時、開かれっぱなしだった門前から夾夜の方へ一人の男が来た。
「………ジィ?」
夾夜はその男を見ると顔を顰めた。
「はい、お久しゅうございます。お坊ちゃまもお元気そうでなによりでございます。」
男は夾夜の言葉に頷くとニコニコ顔で挨拶して、ゆっくりとお辞儀をした。
この男は明月本家の使用人だ。
「…まさか本邸で何かあったのか?俺は…
呼んだ覚えは無いぞ?」
「いえ、そうではありません。私は夾夜お坊ちゃまと光夜お坊ちゃまにご挨拶に…。」
本気で驚いている夾夜に、その男は何事もなかったようにニコニコ顔で答えた。
「………、…ジィ…いつからそこにいた?」
「お坊ちゃまのお察しの通り、お坊ちゃまが学校を休むとおっしゃられたとこらへんから…。」
つまりこの男、夾夜が外へ出てきたほぼ初めから門前にいたのである。
「……………。」
夾夜は侮れない使用人に何も言う気になれず、ただ溜息をついた。
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