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「夾夜お坊ちゃま、失礼ですがもしかすると季志お坊ちゃまのところに行くつもりだったのでは?」
そんな主を前にしても使用人は怖気ず、相変わらずのニコニコ顔で夾夜に聞いた。
「ジィには敵わないな…、なんでもお見通しか。でも誰にも口答えはさせない。とりあえず主の俺と使用人のお前じゃ立場が違う。」
「それは重々承知致しております。しかし、恐れながら夾夜お坊ちゃま…私は今執事として仕えております。」
「何…?聞いてないぞ?」
「昇格致しましたのは今日でございますれば、前置きが長くなりましたがこうしてご挨拶をしに参ったしだいでございます。」
明月家の使用人の中で執事という役職だけが主と対等に意見を述べられる職だった。
「……。」
夾夜が幼い時…彼が遊び相手だった頃から彼の性格が変わっていないことに夾夜は頭を押さえて再び溜息をついた。
「…それで?俺に何の条件を持ちかけるつもりだ?」
「ご理解いただけまして至極光栄でございます。もちろん今日のことを御留めするわけではありません。季志お坊ちゃまの所への挨拶回りは必要なことでございます。…ですが、本邸の方への挨拶回りはどうなさるおつもりで…?」
夾夜の顔からもともと乏しい表情にも関わらず、執事と申す男の言葉で色が消え失せた。
夾夜は本邸(といっても一部の人間のみなのだが)を毛嫌いしていたのだ。
「………。
分かった、逃げてばかりでは失礼だな。だがまだ色々とやることが残っている…5月に入ってからゆっくりと、な。
約束しよう。」
夾夜はしばし考えてから、観念したように執事に告げた。
「かしこまりました。旦那様を始め皆様さぞお喜びになられることでしょう。」
「はいはい…。っていうかさ、俺が約束しなくてもどうせ5日になれば強制送還だったんじゃ…?」
夾夜の言葉を聞いて嬉しそうに言った執事に夾夜は溜息をついて、思い出したように執事を睨みつけて言った。
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