1.帰ってきた二人

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「夾夜、久しぶりだな?」 夾夜が遅い足取りでブラブラと広い校庭を歩いていると夾夜となんとなく似た感じの雰囲気を持つ少年が夾夜に話し掛けた。 「ん? あぁ、慶か。そうだな、久しぶりだ。」 夾夜は声がした方をフラリと見、その相手に笑いかけた。  慶 と呼ばれた少年は、夾夜と従兄弟関係にある。 名字はもちろん 明月 で、夾夜と光夜とは兄弟のように育った。 そして彼にもまた二卵性双子の弟がいた。 「全くだ。ある程度の話は聞いたが、その様子だとまだ…。いくら夾夜でも、精神的ダメージの回復には時間がかかったようだな。まぁ、その内容の程によるけどな。」 慶は笑っているのかいないのか… そんな夾夜の笑い方に苦笑して、校舎へと歩を進めた。 「まぁ、痛み分けってところだな。最も今は一時的な休戦だが、これから何が起こるか分からない。」 夾夜も慶の言葉に苦笑すると同じく歩を進めた。 「夾夜、俺ら同じクラスになるかな?」「さぁ?」 「おや、らしくない発言だなぁ?会長殿?」 「3ヶ月間のことがあるからね。もしかしたら1組からはずされるかもしれない。そうだろ?優秀な副会長サン?」 3ヶ月間。 夾夜はとある事情でアメリカにいて学校を休んでいた。 事情を知る者は夾夜の身近にいる者だけであり、たとえ従兄弟であろうと詳しい内容は全てシャットアウトされていた。 「お前…よけいに毒舌になってねぇか?」 「ハハハッ…、これくらいじゃないとやっていけなかったのさ。」 しかし夾夜にとっては過去話で。 話す気はさらさらないようだった。 「もともと口回しがうまいじゃねぇか、夾夜は?」 「慶、さも俺が悪いように言うのはよしてくれ…。」 笑いを含めた声で問う慶に夾夜はゲッソリとして答えた。 「冗談だ。…お帰り、夾夜。」 慶の方もどうやら夾夜が言わないだろうことは分かっていたらしい。 慶は疲れきった顔の夾夜にフワリと微笑んで言った。 「っとに…。ただいま。」 芝居打つ慶に軽く溜息をついた夾夜だったが、彼もまたフワリと笑って言った。 「しかし、帰って来てそうそうその芝居はやめてくれ…。」 夾夜は再びゲッソリして呟いた。
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